幸太郎と一花
二話更新しています。最新話から来られた方は前話からお読みください。
これ以上は教育上よろしくない惨状になりそうだったので、一花を連れて体育館の外に出た。
断末魔のようなものが聞こえるが、まぁ大丈夫だろう。
幸太郎たちの後を朔太郎と潤平も続いた。
「それにしても、体育倉庫なんて怪しいところにノコノコついてってんじゃねーよ。もっと警戒心持てこのアホ。」
一花は順平の乱暴な物言いにムッとした顔をするが、口を開く前に朔太郎も同意した。
「そうよ一花ちゃん。潤ちゃんが異変に気がつかなかったら、危ないところだったのよ?」
たしかに、間抜けな彼らではあったが、無理やり服を着せられていたかもしれないのだ。もしかしたら笑い事では済まないことになっていたかもしれない。幸太郎は潤平に感謝した。
「谷崎、ありがとうな。」
「いや、別にいいですけど・・・。」
一花も自分の迂闊さがわかっていたのだろう。反論せずにその場で頭を下げた。
「ありがとうございました。助けていただいて・・・。」
ツンデレを発揮せずに素直に謝る姿に、全員が顔を見合わせて笑う。何はともあれ、一花が無事でよかった。
「さて、じゃあ見回りしに行かなきゃな。」
「私たちも宝探し再開しましょう。」
潤平と朔太郎が体育館を後にする。思った以上に時間を取られてしまったので、急がないと宝を全部見つけることができない。
しかしそれに頷いて続こうとすると、何かにくいっと引き止められた。
振り向くと、一花がスーツの袖を掴んでいた。
「また、お兄ちゃんの真似、ですか?」
じっと見つめてくる目に、幸太郎は思わず口をつぐんだ。
心の片隅で雪春が動揺する気配がする。
きっと今なら、一花に打ち明けてもわかってくれるだろう。雪春も言えないでいることをずっと気にしていた。あの時成仏できなかったのは、自分が幸太郎のことを告げなかったからではないかとも思っているようだった。
“一花、ここにいるぞ。俺が見えないのか?”
雪春と出会う前、一花の周りを飛び回っては何度もかけていた言葉が蘇る。張り上げても、体当たりしても、何をしても届かない声、交わらない視線に絶望した。
でも、今なら届く。聞こえるし、触ることもできるのだ。
幸太郎は一度目を閉じてから、再び目の前の一花を見つめた。
そして、一花の頭を両手で思い切りかき混ぜた。
「え?え?え?」
一花は目を白黒させてされるがままになっている。幸太郎は一花の目を覗き込んだ。
「似てたでしょう?」
にかっと笑顔を向けると、一花は一瞬呆けたような顔をした。それからすぐにくすっと笑った。
「はい、とても。」
これでいいんだよ。幸太郎は誰に告げるでもなく、心の中で呟いた。
何だかおかしくなって笑い合う二人を、朔太郎と潤平が遠くから呼びかけてきた。