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一花の疑問

今日も二話更新しています。

最新話から来られた方は前話からお読みください。

 この日一花は予定が立て込んでいた。

 朝にミスコンのリハーサルがあり、その後模擬店のウエイトレス、午後にはミスコン本番だ。その間には風紀委員の見回りもある。今はその集合場所へ向かっているところだった。今日は潤平との仕事なため、早めに行っておかなければならない。彼は目を離すとすぐサボろうとするからだ。

 すると、廊下の向こうから歩いてきた女子生徒が一花を呼び止めた。彼女は二年生の先輩だ。名前はたしか嶺藤愛梨みねふじあいり

 立ち止まって折り目正しく礼をする。先輩だから敬うというより、一花にはあまり親しくない人に妙に丁寧に接するところがあった。

「樋口さんもミスコンに出るのよね?お互い頑張ろうね。」

「あ、はい。」

 そういえば、この先輩も出場者だった。今朝リハーサルで姿を見たのを思い出す。明るめに染めた髪や短いスカートは一花の趣味ではないが、自分をキレイに見せるために努力することは別に悪いことじゃない。現に、愛梨はとても美人だった。それも、自分は綺麗だという自信に裏打ちされた美しさだ。おそらく優勝するのは彼女だろう。ファンも多いと聞いていた。

 同じ出場者のよしみで声をかけられたのかと思ったが、挨拶が終わっても彼女はその場を去る気配を見せなかった。どうやら本題は他にあるようだ。鏡で練習したのかと思うほど、愛梨はとても綺麗な笑顔を浮かべて言った。

「ところで・・・樋口さんって三島先生と仲いいよね?」

「な、仲良くないですよ!」

 不意を打たれて、思わずいつものように返答してしまう。大きな目を瞬かせた彼女を見て一花ははっとした。

「そうなの?」

「あ、いえ・・・それなりには。」

 自分でもツンデレだということを認めざるを得ない瞬間だった。しかし愛梨は気にした風もなく質問を変える。

「じゃあさ、なんで三島先生が生徒会の顧問になったか知ってる?」

「それは・・・夏目先輩がそうしたからじゃないんですか?」

「ふうん。やっぱり夏目くんが言い出したんだ。」

 そこで一瞬、彼女の瞳に冷たいものが走った気がして一花は落ち着かなくなった。そもそもこの質問は一体どういう意図があるのだろう。三島先生が顧問であることに何か問題でもあるのだろうか。

「・・・あの?」

 すると先ほどの表情は気のせいだったと思うぐらいにすっぱりと打ち消した愛梨は、再びにっこりと綺麗な笑顔を浮かべた。

「ううん、なんでもない!ありがと!じゃあまた後でね。」

 そのまま小走りで去っていく。彼女とすれ違った何名かの男子生徒が見惚れるように視線で彼女を追った。

 結局彼女は何がしたかったのかわからなかった。何故突然、雪春や夏目が出てくるのだろう。

(夏目先輩・・・ね。)

 一花もついでに件の生徒会長を思い浮かべた。

 驚くぐらい綺麗な顔をしているが中身はむちゃくちゃな人、というのが一花の見解だ。

 一歩間違えれば恐怖政治のような言動をして、全校生徒を従える。あまつさえ校長を始め教師陣までも、夏目の行動を制限することができない。もちろん五月の事件の時に助けてくれたことは感謝しているが、深く関わったら面倒なことになりそうだ、と一花の本能が告げていた。

 しかし、雪春に目をつけた審美眼は褒めてやってもいいと密かに思っていた。

 雪春はそれこそ春の雪のようにすぐに溶けてしまいそうな儚い印象があるが、実は意外と情に熱いものを持っているのだ。五月の事件の時も、雪春がいなければ一花は今頃どうなっていたかわからない。子供のように泣き喚く自分をずっと抱きしめてくれた時の暖かさは、今でも一花の中に残っていた。

 それが普段は無表情で敬語で硬いから、なかなか他の人は雪春のそういう面に気づかない。そういう訳で、雪春を見つけた夏目を多少認めてはいた。

(ま、もうちょっと頑張らないと三島先生を渡す気はないけど。)

 この心情をもっと素直に出せばツンデレとは言われないということを、一花は気がついていなかった。

「あ、待ち合わせ。」

 そこで一花は廊下の時計を見た。時間までいくらもない。

(やば・・・)

「樋口さん。」

 待ち合わせ場所に向かおうと足を踏み出したとき、もう一度誰かに呼び止められた。


「三島先生が呼んでるんだけど、ちょっといいかな。」


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