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雪春の友人

「また一から考え直しだな。」

「当たってると思っていただけに落胆が大きいわね。」

 部室棟から再び本棟に戻り、二人は校舎の中をぶらぶらと歩いていた。昼が近いからか、飲食を扱う模擬店は呼び込みに精を出している。浴衣を着た売り子がいる教室の前を通った時、なにやら香ばしい匂いが漂ってきて、幸太郎は思わず腹を押さえた。

(そうか、この体はお腹がすくんだな。)

 幽霊になってからそういった感覚が薄れていたので少し新鮮だった。この機会に何か食べてみるのもいいかもしれない。

(ユキの代わりに俺がしっかり食べてやろう)

 22歳の成人女性にしては、この胸はいささか不憫だと、雪春にも伝わることを忘れてかなり失礼なことを考えた幸太郎だった。

「ユキー!」

 その時後ろから誰かに呼び止められる。振り向くと、一人の女性がこちらに駆けてくるところだった。同時に雪春から驚く気配を感じる。

「やっと見つけた!久しぶりね。」

 肩までの髪を綺麗に巻いた、少し勝気の目をした女性。ノースリーブのチュニックとホットパンツからすらりと伸びた手足に思わず目を奪われる。何を隠そう、幸太郎は脚フェチだった。

「お知り合い?」

 朔太郎が尋ねてきて、それどころではないことを思い出す。

「えーっと・・・。」

 誰だろう。雪春の知り合いであることは間違いないのだが。

 幸太郎が言いよどんでいると、女性は片方の眉をピンと上げた。

「え、何?数ヶ月会わないうちに私のこと忘れたんじゃないでしょうね?」

 美人は怒ると迫力がある。ますます焦る幸太郎に、雪春が心の中で囁いた。

(種村美咲さん。大学時代の友人です。)

「まさか!久しぶりだな、美咲、さん!」

 慌てて取り繕う口調に気になるような表情をしたが、すぐににっこりと笑ってもう一度「久しぶり」と言った。

 それにしても雪春が友人という人物は珍しい。それどころかこの二ヶ月で初めて見た。幸太郎は興味を惹かれて、話を続けた。

「今日はどうしたんだ?」

「風の噂でここが文化祭って聞いたから遊びに来たのよ。っていうか、水臭いじゃない。言ってくれればよかったのに。」

 どうやら雪春は伝えなかったらしい。平日であったし、きっと遠慮したのだろう。

「ねぇ、少しぐらい空き時間ないの?」

「そうだなぁ・・・。」

 幸太郎も美咲に聞いてみたいことがあったので、できれば時間を作りたかった。しかし今は宝探しの途中だ。朔太郎のためにも負けるわけにはいかない。

 迷って言葉を告げられないでいると、朔太郎が横から助け舟を出した。

「ユキちゃん先生、それならファッションショーを一緒に見たら?どうせ私もその間は宝探しできないし。」

 そういえば午後にはそれがあった。それなら一花も見ることができるし、一石二鳥だろう。

「それいいな。じゃあ13時にふたばホールでもいいか?」

「おっけー了解!聞きたいこといっぱいあるから覚悟しておいてね!」

「聞きたいこと?」

 幸太郎が思っていたことと同じことを言われて、小首を傾げる。

 美咲はにやりという擬音が付きそうな笑顔を浮かべた。

「特にあんたの口調が変わったこととかよ。」


今日ももう一話更新します。

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