能天気な幽霊
模擬店などの片付けは全て明日が終わってからなので、今日は比較的早い時間に帰路につけた。しかし一日中歩き回ったために、既に足が悲鳴を上げていた。早く家に帰って風呂に浸かりたい。
そんな疲れとは全く無縁の幸太郎が、雪春の前をふよふよと浮いている。
「宝もあと三つだなー。明日で頑張って見つけないと。」
「そうですね・・・。犯人が結局何をしたかったのか分からないままですけど。」
ため息をつく雪春に、しかし幸太郎はいつものようににかっと笑った。
「でも、その犯人のおかげで色んなところを見て回れたんだぞ?俺は楽しかったけどな!」
本当に、幸太郎のこういうところには敵わない。「罪を憎んで人を憎まず」という孔子の言葉があるが、この場合の幸太郎は根っこから全て肯定的に受け入れてしまう。もちろん盗犯は悪いことだとわかっているだろうが、犯人はきっと文化祭を楽しませるためにやったとか思っているんだろう。
悪く言えば能天気。よく言えば―・・・。
「一花の可愛い格好も見られたし、在学中は見に行けなかった部活も見れたしなー。」
楽しそうに話す幸太郎を見つめて、今日の朔太郎の話を思い返す。
本当は仲良くしたいのに踏み出せないでいる彼はとても小さく見えた。
雪春も学生時代、人付き合いが怖くて誰に対しても一線を引いていて、それをある友人に怒られたことがあった。彼女はとてもいい人で、心に芯があって、いつも輝いていた。そして一人でいようとする雪春を放っておけないお人好しだった。きっと未だに踏み込んでいこうとしない雪春に対して、もどかしい思いを抱いていることだろう。
きっと幸太郎のようだったら、彼女にそんな思いをさせることもないのだろう。誰の心にもすっと入っていけて、誰でも受け入れられる彼なら。
「――幸太郎。」
雪春の声に幸太郎が振り向く。その目があんまり優しい色をしているものだから、次の言葉が出せなかった。
それでも幸太郎は急かさない。いつだって、雪春が言い出すのを待ってくれるのだ。
雪春はゆっくりと口を開いた。
「明日――・・・」
今日も二話続けて更新します。