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写真部の災難

 写真部部室は十畳ぐらいの部屋であまり大きくない。入って正面に長机があり、その奥にソファーとローテーブルが置いてある。おそらくそこで部員たちが部会などをするのだろう。壁には一面、今まで撮った写真が飾られてある。校内のものが多いようだ。そして右手の壁には小さな暗室に続く扉があった。

 宝はその暗室の中の写真を現像する引き伸ばし機の近くに置いてあったらしい。おそらく「暗闇」が暗室、「影を刻むもの」が引き伸ばし機だったのだろう。今は次の暗号カードだけが残されていた。

「今朝、部屋に入った時はなかったと思うんですけどね。」

 忙しそうな写真部部長が受付の片手間に答えてくれた。

 現在受付代わりとなっている長机の前には、この部屋の小ささからは想像できないほどの人が集まっていた。彼らの目的は写真部が売っているものにあった。

 雪春は長机の上の分厚いファイルを横目で見る。それは生徒たちの写真だった。どうやら好きな子の写真が欲しい人たちのために、許可をとって販売しているらしい。誰かが欲しがっていると言われたら、撮られた方も悪い気はしないだろう。

 写真はプロマイドのように一人だけのものではなく、友達同士や部活仲間数人で写っているものばかりなので、買っても好きな子がバレることもない。

 しかしこうして好きな子の写真を求めて長蛇の列に並んでいることを思うと、なんだか微笑ましかった。

「一花のもあるぞ。」

 幸太郎がファイルの中の一枚を指差す。それに限らず、そのページには彼女が写っているものが多かった。やはり需要が高いらしい。

「あ、樋口さんはやっぱり、風紀委員の仕事している時のが一番人気ありますね。」

 雪春の視線に気がついた部長が答える。

「ただ、谷崎が映らないようにするのが難しいですよね~。谷崎は谷崎でまた樋口さんが映らないように撮らにゃならんし。」

 潤平も人気のようだ。やはり好きな人が違う異性と写っているのは売れないのだろう。

 他にはどんな写真が売られているのか少し気になったが、あまり仕事の邪魔もできないので、当初の目的に戻ることにした。

「何か変わったことはありましたか?暗室に入られた心当たりとか。」

 今朝にはなかったということは、文化祭が始まってから置かれたということだ。こんなに人が見ている中で暗室に入ったら目立つだろう。

 しかしその質問に部長は首をひねった。

「俺は今日ずっとここにいましたけど、全くないなぁ。暗室の鍵は空いているからこっそり入れないこともないけど。」

 では誰にも見られない可能性にかけて、強行突破したのだろうか。

 雪春が考え込んでいると、部長が思い出したように声を上げた。

「そういえば、生徒会長がきたな。」

「え?綜ちゃん?」

 邪魔にならないように壁に張り付いていた朔太郎が反応する。

「うん。なんか突然来て、盗撮はしてないだろうなって。失礼な話だよな。ちゃんと許可取ってるってのに。」

 まあ怖くて言えないけど、と付け足す。

「おかげで生徒会長が出て行くまでは客も含めてみんな固まってたよ。なんか注目させるオーラあるよな。」

 たしかに、あの存在感は誰も無視できない。悪いことをしてないにもかかわらず、妙な後ろめたさに襲われたであろうその時の客たちを少し不憫に思った。

「あと、教師の写真は置いていないのか聞いてましたよ。誰のが欲しかったんだろう?」

「・・・さぁ。」

 おそらくそれはつっこんだら負けだ。突き刺ささる幸太郎の視線に気づかないふりをした。タイムリーな話題過ぎてあまり考えたくない。

「そういえば最近、盗撮が問題になっていたわね~。」

 朔太郎がタイミングよく話をそらしてくれたので、部長もそちらに食いついた。

「そうそう、なんか誰かに見られてる気がするとか、シャッター音が聞こえるとか言われてるけど、それだけで写真部のせいにされたらたまんないよ。」

 そういえばそんな報告が生徒会にも寄せられていた。怖いから一人で帰れないと震えながら夏目に泣きついて来た女子生徒もいた。その時は雪春が帰りに送っていくことで(その女子生徒が何故か“当てが外れた”というような顔をしていたのは置いといて)事なきを得たが、実際の被害が出ていないので未だ原因究明はできていない。しかしおそらく夏目が目を光らせていることだろう。彼は式神とやらのカラスの目を通して、物を見ることができるからだ。五月の事件を解決するのにも一役買っていた。

 部長はまだ愚痴を言い足りないようだが、並んでいた客が急かしてきたので慌てて対応をした。

 取り敢えず聞きたいことは聞けたので、これ以上ここにいる理由はない。雪春たちは部長にお礼を言ってから部室を去った。


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