いつもより多く頭を下げてみた。
*
「な、なんじゃ!?」
リヤカーに移動式トイレを載せてやって来た僕を見て、ジャイルおじいさんは玄関ドアを蹴破るように開けて出てきて、目玉が飛びるかと思うほどに目を見開いた。
「こんにちは」
「涼しい顔して挨拶なんぞするでないっ。ワシの神聖な研究施設に、そんな駄作を持ち込むとはどういう了見じゃ!」
ジャイルおじいさんの剣幕は僕の予想の範疇だったので、僕はあまり驚くことはなかった。
ちなみに研究施設などと大げさに言っているけど、村のどこにでもあるからぶき屋根の平屋だ。
「ジャイルさんこそ、村で話題のお祭りを見に来ないなんて、いったいどういう了見なんですか。僕、ジャイルさんもてっきり来ているのかと思って結構探しちゃいましたよ」
「祭りじゃと? あぁ、あの空までしか飛べぬ乗り物のテスト飛行のことか。ちゃんと失敗したか?」
「いいえ、大成功です」
「ちっ」
「でもちょっと厄介なことが起きまして、こうしてジャイルさんのおうちまで馳せ参じたわけです」
「厄介なこと?」
「はい、非常事態と言っても過言ではありません。どうしてもジャイルさんのお力が必要なのです。そのために僕はクリスの工場からこんな重いものをわざわざ運んできたのです」
「ワシの力じゃと?」
「はい。ジャイルさんの力、すなわち類稀なる頭脳、聡明な判断力が、今まさに渇望されています」
「ほほう」
お世辞の連続射撃が効いたのだろう。ジャイルおじいさんがわかり易く機嫌をよくしてみせた。よしよし。
「どういうことじゃ」
僕は周囲に誰もいないかを確認し、小声で状況を説明した。
『一週間目の便秘が上空で解放されつつある』なんてことがほかの誰かに知れたら、クリスの沽券に関わるからね。うん。
昨日の大量のトマトが原因なのは間違いなさそうだ。痩せるかどうかはともかく、便秘には効くことが今回のことで立証される。上空で(どのような形になるかはジャイルさんの返答次第)。
僕の話を聞き終えると、ジャイルさんはさも愉快そうに鼻で笑った。
「ふんっ、お断りじゃ。なぜワシがあんな小娘を助けねばならん。空に向かって尻を突き出して用を足せばいいんじゃ」
「ムチャクチャなこと言わないで、どうかこのとおり」
僕はいつもの接客の二倍腰を折って頭を下げた。
「嫌じゃ」
「これはジャイルさんにとってもチャンスだと思うんです」
「どういうことじゃ」
「今日は村の皆が空を眺めています。村長も来ていますよ。そんな大勢の中でジャイルさんの発明品を華麗に披露したらどうなると思いますか? 村人たちの注目を一身に浴び、ジャイルさんの評判も跳ね上がること間違いなしです」
「むむ……」
ジャイルおじいさんは腕組をし、低くうなった。眉間に皺を寄せているが、不機嫌になっているわけではないだろう。
駄目押しの一言が必要みたいだ。よし。
「クリスのように、村長が補助金を出してくれるかもしれませんよ」
これが決定打となった。
ジャイルおじいさんは重々しく頷いた。