プロローグ
どうしてクリスがあんなにも空に憧れていたのか、ようやくわかった。
たしかにあの青色は魅惑的だ。
空の只中にいたあの感じは、今でもはっきりと思い出せる。
際限のない縦横無尽に広がる青色の空間。
そこにぽつんと佇む僕(それと諸事情で個室に篭もるクリス)。
自分がとてもちっぽけで、空の青色に溶け込んでしまうのかと思った。
でも、そんな小さい僕にも大切な人がいて、思い出があって、帰る場所があることをなぜだかそのとき実感した。たぶん、大地に帰るための道しるべだったんだと思う。
それまで僕は、いつもクリスが眉根を寄せて難しそうな設計図やわけのわからない機械部品と格闘しているのを不思議に思っていた。
不機嫌になってまでやることなのかと。
空なんて、見上げていればいいじゃないかと。
何も飛行機を作らずとも、クリスは村の修理工として十分にやっていけているからだ。大体、飛行機を作って空を飛んだとしても、それがお金になるのか僕には甚だ疑問でならなかった。
僕はどうしても日常生活のことに考えが向きがちなんだ。たぶん、父親からカフェ『チョッチョリーナ』を継いで二代目になって、責任が重くなったからかな。うん。
クリスはそんな僕に『オルタはもっと楽しんだほうがいいよ』と苦言を呈すけど、僕は僕で、店の掃除をしたり、お客さんにコーヒーをお出しするのを楽しんでやっているのだけれど。
でも、クリスの言う『楽しむ』というのは、もっと広く世界を見ろってことなんだと思う。今ならそれがわかる。
クリスも僕と同じで地面から空を見上げていただけなのに、どうしてあの青色の魅力に気がついたんだろう。それは今も謎だ。
そして、空の青色よりさらに高い宇宙を夢見るジャイルおじいさんに至っては、僕の理解の範疇を大きく超えていて語るべき言葉が見つからない。
ましてや、互いに毛嫌いしていたクリスとジャイルおじいさんが――。