幻ミサイル
高いビルとビルの間から、申し訳程度の空が見えた。暗色の壁と壁の合間で気持ち悪くみえるほど鮮やかな青だった。
その青に白く消えかかった細い線が、スッと伸びていた。私はその場で足踏みを2回した。靴底が削れて、釘が見えているピンヒールがカツカツと鳴った。あぁ、あたしはどこへ行けば良かったんだっけ。飛行線に目をやったままあたしの足は空振りの音を鳴らす。カツカツ、カツカツ‥。
前にも後ろにも進みようがないような気がした。腕時計の秒針がそれでも急げと規則正しく頷いていた。目の前のビルがグニャリと首をもたげて、お辞儀をして、崩れ落ちて行く様な幻を見た。ボロボロに崩れたビルの残骸の上をスッと、飛行線が行く。ぐいぐいとあたしの進むべき歩幅分伸びていく。
少しずつ孤を描いてあの線はやがて、地表に落ちてしまうんだろうか。あたしは絵でしか見たことない原子爆弾のキノコ雲を思い出す。もくもくとあの行き場のない粉塵を。あの線はミサイルに変わって、全て終わらせてくれないかしら。眩い光の中であたしはタップを踏むだけの、そんな生活を妄想した。
カツカツ、カツカツ‥
結局いつもと変わらない日常、
あたしは幻のミサイルを待っている。
「幻ミサイル」