振り子
大人になるとできることが増えると思っていた。たとえば、祖父のお気に入りだったねじまき式の振り子時計の鍵は大人じゃないと触らせてもらえなかったし、キラキラした目で接客をするケーキ屋のスタッフには大人にならないと出来ないって。
けれど、大人になって出来るようになったことと同じ数くらい、できなくなったことも増えた。
たとえば、薬局の前で配ってるヘリウム入りのキャラクターの風船は小学校の高学年になるのと同時にもらえなくなったし、夕方の公園でブランコをおもいっきり高く漕ぐのは中学入学と同時に“できなく”なった。
祖父の振り子時計を動かす鍵を受け取った頃には、もう公園はあたしたちの楽園でなくなってしまった。
ねじを巻く。
チクタクと振り子は揺れる。
あたしはそこに昔おもいっきり漕いだブランコを思う。
そうして、懐かしさに息苦しくなって、子供に封をした。
鍵を貸して、と駄々をこねたあの頃のあたしに、複雑な表情をした祖父のことを思い出して、こういうことなんだとおもった。
振り子が鳴る。
これからもできることが増える度に出来ないことが増えていく。
居間で縮こまってお茶を飲む祖父みたく、あたしもいつかきっと流されて行く。
振り子はもう止まらない。