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夜の妖精
どうしてもと、君が言うから。僕は手を引かれるままにあなたについて行く。
真夜中の散歩。
あなたは錆び付いたママチャリを漕ぎながら。僕はそれに追いつくように小走りで。
静かな住宅街の中キイキイと、錆びたチェーンベルトの音が響く。あなたと僕の小さな散歩。
「もっと早く。」と僕が追い抜き、「ちょっと待って」とあなたが回す足を速めて。
追い抜き、追い抜かれ、はしゃいだ僕は、つい疲れている背中を見て悪巧み。
誰も乗っていない荷台を力強く押す。
少しばかりのイタズラ心。一瞬の追い風のつもり。
彼女が少し前へ行く。少し揺らぐハンドル。
勢いよく倒れる錆びたママチャリ。
道路へはみ出るあなたの身体。
僕は、ぼくは。
勢いよくやってきた車が連れていく。
僕の大好きなお母さんを遠い世界へと連れて行く。
街灯が綺麗だった。
妖精みたいだな、
血に染まる路上を見ながらそんなこと思った。