魔法が解ける時
午前0時。
凛からの返信は、年明けと共に送られてきた。
それと同時に由海の携帯のメールの着信音がなったが、そんなことは気にする事も出来なかった。
見るのが怖く感じたが、由海は勇気を出して凛からの返事を見た。
『あははっ、ごめん。俺、彼女いるんだよね。マリっていうんだけどさ』
それを見た瞬間、由海は自分の中にある物がすべて、音を立てて崩れていくような気がした。
冗談だと思ったのだろう。凛はとても軽く、由海の心を打ち砕いた。
マリというのは恐らく、岡島真理の事だろう。
真理は3年2組の生徒で、スタイル抜群、ルックスも抜群で、成績も優秀、誰もが憧れる存在だった。
「岡島さんが話してるの聞いちゃったんだけどさ」
怜奈は確かにそう言っていた。そうか、だから真理はそのことを知っていたのだ。
魔法で作られた綺麗な衣装もガラスの靴も、午前0時とともに、消え去ってしまった。
由海はしばらくの間呆然としていたが、ふと、ある事に気づいた。
そういえば、さっきのメールは何だったのだろう。
恐る恐る携帯を開き、画面を確認すると、確かにメールが1件届いている。
(こんな時間に一体誰なの……)
そう思いメールを確認すると、それは健介からのものだった。
(何?なんでこんな時間に……)
健介からメールが来るのは初めてだ。中学1年生の時にアドレスを交換するにはしたものの、結局、お互い使った事は1度もなかった。
それが今届く事自体、あり得ないことだったが、メールの内容はさらにあり得ないものだった。
『Happy new year.I love you』
見た瞬間、由海は思わず吹き出してしまう。
(は……?何これ)
まったく意味が理解できない。英文も健介にはまったく似合わなかったし、「Happy new year」はいいとしても、「I love you」とは一体……。
訳が分からず、どう返信したらいいかも分からない。いや、そもそもこれは返信するべきなのだろうか。
混乱して、凛に振られたショックなどすっかり忘れてしまっていた。
考えても仕方がないので、由海はとりあえずベッドに入った。
もう風邪は治っているというのに、やはりなかなか寝付けなかった。
午前7時。
由海はベッドからはね起きるや否や、すぐに携帯を取り、健介に電話をかけた。
数秒後、寝ぼけ気味の健介の声が聞こえてくる。
『ん、もしもし……由海か?あけましておめでとう』
だが由海は新年の挨拶はせず、いきなり疑問をぶつけた。
「ちょっと健介!なんなの、あのメール」
その一言で、健介は完全に目が覚めたようだ。
『み、見たのか』
まるで見て欲しくなかったかのようだ。
「見たよ。てか、全然似合わないし。なんなの、『I love you』って」
『い、いや……だから、その……』
しばらくの沈黙の後、健介はいきなりこう続けた。
『す、好きなんだ!お前の事。ずっと好きだった。小学校の時から……』
突然の告白に、由海はどう返せばよいのかも分からなくなってしまう。
『それで、来年卒業したら、お前とも話せなくなると思って、だから!その前に伝えたくて……』
それは由海の凛に対する思いとまったく同じものだった。
『だから、由海!お、俺と……付き合ってくれませんか』
その丁寧な頼み方も健介らしくない。だが……。由海はこれまでの事を思い返してみた。
由海にとって健介は親友であり、それ以上の感情を持った事は1度もなかった。
そして、由海は凛の事をずっと思い続けていた。できれば、諦めたくはない。だが、凛にはあまりにもあっさりと振られてしまった。凛はどんなに思い続けても、絶対に手の届かない存在だろう。
一方、健介は由海が風邪をひいている間、ずっとそばにいてくれた。健介なら、どんな時でもそばにいて、守ってくれる気がする……。
由海の心は決まった。




