最悪なクリスマス
それから数日間、由海と凛のネット上での会話続いた。
凛はいつも5時から6時の間と、9時から10時までの間に分けてチャットに参加していたので、由海にとっては毎日たった2時間しか話せないわけだが、わずかな間だけでも凛との会話はとても楽しく、本当に魔法で純白のドレスを着て、ガラスの靴を履き、王子様と踊っているようだった。
毎日話しかけるのは迷惑かとも思っていたが、凛はいつも優しく返事をしてくれていたし、少しでも凛と話がしたかった。
そんな日々が続き、由海は12月25日の朝を迎えた。
由海はいつも午前7時になると自然と目が覚めて、すっきりとした朝を迎えるのだが、この日はいつもと違っていた。
由海は異常な暑さにより目を覚ました。なぜか体が鉛のように重く感じる。
ケータイを開き時計を見ると「6:00」と表示されている。つまりは午前6時。いつもならこんなに早く起きることはないはずだが、今感じている異常な暑さのために早く目が覚めてしまったのだろう。
由海はこの症状に心当たりがあったが、すぐにその考えを否定し、そうでない事を願った。こんなことは中学に入学してからは一度もなかったのだ。まさかクリスマスに……。
重い体を引きずりながら下の食卓に降りると、由海よりも早起きな母がすでに朝食の準備をしていた。
「お……かあ、さん……」
うまく声が出ず、母にも届いていない。だが気配を感じたのか、母は由海の存在に気づき、振り返る。そして、すぐに彼女の様子が変だと気づいた。
「ゆ、由海!どうしたの。具合悪いの」
呼びかける母の声が遠ざかっていき、やがて目の前が真っ暗になった。
「ん……」
由海が目を覚ますと、そこは自分の部屋ではなく、一階の畳部屋だった。
頭にひやりとした感触を覚えて、触れてみるとやはり熱を冷ますためのシートが張ってあった。
「おっ、気づいたか」
それは母の声ではなく、男の声だった。だが由海の父は毎日朝早くに仕事に出て、夜遅くに帰ってくる。それは休日も同様であり、今家にいるはずはない。右に目を向けると誰かがそこに座っているのだが、まだ意識がはっきりしないせいか、ぼんやりとしか見えない。
やっと意識が完全に戻り、そこにいる人物が誰だか分かった。
「健介……」
「おう」
山崎健介は少し照れたような顔をして返事をした。
健介は由海の家のすぐ近くに住んでいて、苗字も由海と同じで、小学生からの同級生でもあり、由海の唯一の男友達だった。
「なんで、ここに……」
率直な疑問だった。健介とは怜奈と同じく中学2年に上がった時にクラスが離れてしまっていた。それ以来、あまり話す事もなく、お互い家に遊びに行くことも無くなっていたのだ。。
由海の質問に対し、健介はなぜか恥ずかしそうに答えた。
「い、いや、たぶん由海ならクリスマスでも暇だろうなぁって思って、久しぶりに遊びに来てみたんだけどさ、由海の母ちゃんから、40度も熱があるって聞いたから、見舞いに来てやったんだよ」
由海は、その言葉で自分の予想が的中していた事を理解した。やはり由海は風邪をひいていたのだ。しかも熱が40度もあるとは。
「別に頼んでないんだけど」
「うるせぇ」
健介に見舞いに来てもらっても、由海は全く喜べなかった。「由海ならクリスマスでも暇だろう」という言葉にも腹が立ったし、何よりも、クリスマスに風邪をひいただけでもショックなのに、健介といっしょだと思うとますます落ち込んでしまった。
「私、もう寝るから、早く帰ってよ」
由海がそう言うと、健介は
「はいはい、悪かったな。お邪魔しました」
と言って出て行ってしまった。
久しぶりに健介と話したが、そんな事は喜んでいられないほど由海は苦しんでいた。寝ようと思ってもなかなか寝付けなかったが、徐々にまぶたが重くなっていった。




