始まり
魔法にかけられた由海は凛とどんな関係になっていくのか……。
最後はまさかの展開に!?
中学生の切ないラブストーリーです。
ぜひご覧ください。
雪城中学校3年3組の教室で、山崎由海は小さなため息をついていた。
2学期の終業式が終わり、明日から冬休みに入る。
そして今は終学活の時間であり、この時間が終われば下校となる。
(はあ……今年も凛君と話せなかった……)
そう思いながら見つめる視線の先では、クラスで人気の美男子、吉村凛が頬杖をつきながら先生の話を聞いている。由海は毎日、凛の事を見つめ続けているが、向こうが気づく様子は全く無い。
そうしているうちに終学活の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「よーしそれじゃ、みんな健康に気を付けて、始業式には元気に登校してくるように。良いお年を。さようなら」
そう言って先生が話を締めくくると同時に、学級委員が号令をかけ、クラス全員が一斉にあいさつをして解散となり、次々と教室を出て行った。
由海もすでに帰り支度を済ませていたので、続いて教室を出ようとしたが、
「おーい、由海」
と呼びとめられた。
振り返らなくても誰なのかは検討がついていた。振り返ってみるとやはりそこには親友の高橋怜奈の姿があった。怜奈とは1年生の時に同じクラスとなり、それから親しくなった。2年生からは違うクラスになってしまったが、今でも二人は、お互いに特別な存在である。
「一緒に帰ろっ」
と怜奈に言われたので、
「うん、いいよ」
と由海は答え、怜奈とともに歩きだした。
学校の校門を抜け、お決まりの下校ルートに差し掛かった頃に、突然、怜奈が声をかけてきた。
「そういえばさぁ、由海、今年も凛君と話せなかったんでしょ」
由海は1年生の時に凛に一目ぼれした時、真っ先にそのことを怜奈に告げていた。
「うん……」
そう答えるしかなかった。事実、凛と同じクラスになったものの、1年間一言も話せていなかった。
すると怜奈は、由海が全く予想もしていなかった一言を告げた。
「しょうがないなあ、舞踏会に行けないあわれな娘のために、私が魔法をかけてやるか」
「え?」
意味が理解できなかった。「魔法をかけ」るとは、一体どういうことなのだろうか。
「由海、最近クラスで流行ってるサイトやってるでしょ?」
「ああ、あのチャットで離れた所にいる友達といつでも話せるってやつ?」
そのサイトの事なら由海も知っていた。無料登録の会員制のサイトで、ニックネームを検索して仲間を見つけることができ、一年ほど前からクラスの間で話題になり、由海も半年前から始めていたのだ。
さらに怜奈はこう続けた。
「そうそう、それ。でさ、今日ね、2組の岡島さんが話してるの聞いちゃったんだけど、凛君もそのサイト、最近始めたらしいよ」
「えっ、嘘!?」
思わぬ情報に心が舞い踊る。
「ほんとだよ。『ヨシムリン』っていう名前でやってるんだって。これって凛君と話す絶好のチャンスだと思わない」
吉村凛を縮めて「ヨシムリン」か。そのネーミングセンスはどうかとも思ったが、せっかくの凛と話すチャンスなのだ。由海はそれから、ヨシムリンに関する事を怜奈から教えてもらった。
そうして、しばらく怜奈と話しているうちに、分かれ道に差し掛かった。
由海の家は左に曲がった先にあるが、怜奈の家は右の道の先にある。
「あっ、ここまでだね。じゃあね由海。良いお年を~」
最後の「良いお年を~」が、なんとなく意味ありげに聞こえた。
「じゃあね~」
そういって怜奈と別れ、左の道へ曲がると同時に、由海は一目散に駆けだした。
急いで家に帰り、
「ただいまっ」
と言いながら階段を駆け上がり二階にあるマイルームに入ると、着替えるのも忘れて机の上にあるノートパソコンを開き、電源ボタンを押した。
待ち受け画面が開くまでの時間をこれほどじれったく感じたことはなかった。
下の階から母の声が聞こえてくる。
「由海ちゃん、どうしたの?なんか騒がしかったけど」
「ごめん、お母さん。急いでるの」
そう答えている間にやっとパソコンが立ち上がった。
インターネットのウインドウを開くと、例のサイトに接続し、検索の欄に怜奈から教えてもらった凛のニックネームを入力し、検索ボタンを押した。
すると、「ヨシムリン」という名が1件だけヒットした。
期待に胸を膨らませながら、そのリンクをクリックしてみる。すぐにページ移動が完了した。
プロフィールを確認すると、中学3年生の男性で、このサイトは始めたばかりだという。怜奈の情報と一致する。彼で間違いなさそうだ。
ヨシムリンのチャットのページに移ると、ちょうど彼は友達と会話をしているところだった。話しかけるなら今しかない。
だが、由海はそれをすることをためらっていた。
(もしも、私だってバレたら……もし、まったく相手にされなかったら……)
しかし、由海は来年、卒業となる。凛と同じ高校に入ることはないだろうし、もう会うこともないだろう。つまり、この機を逃せばもう一生、凛と話す事が出来なくなるかもしれないのだ。
それに、と由海は思い改める。ここはネットの世界なのだ。どれだけ失敗しても現実に影響することはほとんどない。
ややこしいニックネームを付けるのも面倒だったため、そのまま「ユミ」という名でサイトに登録していたが、同じような名前の人物なら日本中に山ほどいる。自分だとバレることもまずないだろう。
由海は勇気を振り絞り、ヨシムリンに向かってこう送信した。
『こんにちは。あなたと同じ中学3年生のユミです。よろしくね』
まずは挨拶からでいいだろう。後は相手の反応を待つのみ。
数十秒後、相手から返信が来た。
『こんにちは、ユミさん。よろしく』
まずまずの反応だ。とりあえず無視されることはなかった。それから由海は凛にいろいろな質問をし、少しずつ接近していった。
『ヨシムリンさんの誕生日は何月ですか』
『僕は11月生まれです』
『嘘っ!私も11月生まれです』
これは本当の事だった。由海は凛が自分と同じ11月生まれであることに驚き、喜びを感じていた。
その後も、由海と凛には血液型など、いくつか共通点があることが分かり、ますます親しくなっていった。
そうしてしばらく話しているうちに、下の階からまた母親の声が聞こえてきた。
「由海ちゃん。ご飯できてるよー」
「うん、わかった。今行くよ」
そう返事をして、早く夕食を済ませて凛と会話をしようと思いながら、由海は急いで階段を駆け下りて食卓についた。
母は準備を済ませて台所から戻ってくると、少し驚いたような顔で聞いてきた。
「どうしたの由海ちゃん。まだ制服のままじゃない」
と言われ、由海は自分が着替えていない事に気付いた。凛と話すことに夢中で忘れてしまっていたのだ。
「ごめん、忘れてた。後で着替えるよ」
由海はそう答えると急いで夕食を食べ始めた。
母は少し訝しげな顔をしていたが、それ以上は何も追求してこなかった。




