終わりのお話
祭りの日
どこにいても同じ
私は不幸でしかいられないのだから
そばにいて
何が言いたいの?
言葉では伝わりません
ナシカ
あなたは何をしているの?
朝が明けようとしている頃に3発の花火が打ち上げられた。
一発目は控えめに。二発目はみんなを起こすように。三発目は盛大な祭りの始まりを告げるように。
さあ、お祭りの始まりだ。
この音でアイラが目覚めた。はっとした目覚め。今日で何もかもが終わろうとしている。
自分はどうなるのだろうか。ナシカは私を助けにきてくれるのかな? 不安な要素ばかりだったけれど、どうしていいのか途方にくれた。
**
ナシカは目を閉じて花火の音を逃さないように聞いていた。目を開けると穏やかに包み込む広大な大地があった。
全てはアイラのために。彼女のために動こうとしていた。
あの薄汚い魔女を倒すために何百人もの優秀な騎士たちが集った。ナシカの人徳はすごかった。
眼下を見下ろすと吟遊詩人が歌っていた。こんなところいるのは不自然であるが、祭りの日だ。何があってもおかしくはない。
人々は浮かれる
何もかもを知らずに
僕は唄うよ
大切なもののために
涙と血の流れる大地
穢れは払うことができないから
時間をかけて償おう
昼になる。
「出撃! 剣と盾を持つ我ら騎士団。魔女の首を取る!」
今まで隠れていた騎士たちが歓声を上げて突入した。いきなりの襲撃にあっけなく敗れ去る城を守る兵士たち。
「魔女は奥だ! 進め!!!」
ナシカの声はよく響いた。
「行くぞ!」
走る。走る。風のように。
私には何が必要か? そんなことは簡単だ。魔女の首だ!
思い切りドアを蹴飛ばすと、金具がはずれそのままそのドアは吹き飛んだ。
「女王様! 命を頂戴に預かりました」
恭しく礼をするものの、その瞳には侮蔑の色しかなかった。
この人が、アイラを苦しめているのかと思うと、叩き切ってしまいたくなる。
「……無駄よ。私を殺せる人間なんていないわ」
あまりに落ち着いた様子をする彼女を見て、ナシカは笑みを浮かべた。
あなたは何もわかっていないのですね。
「私は半分は魔族ですから、あなたは滅ぶ」
この瞬間、何が起きたかわかるでしょう?
魔女の顔がだんだんと醜いものに変わり行く。今までの栄華が嘘のように。
「終わりですね」
やっと、彼女は解放される。
「やめっ!」
剣を振りかざす。もちろん普通の剣ではない。魔女を斬るためだけに作られた剣だ。赤い宝石の埋め込まれたその剣は、血を浴びてさらに赤く怪しく光り輝いた。
「この血に終わりなんかないわ」
魔女はそういうと死に絶えた。
心は失われることは無いと思っていた。
全ては間違いだ。
穢れは全てを包み込み、死へといざなう。
**
「アイラ!」
何名かの兵士と一緒にアイラの檻を取り壊した。
一人の兵士はナシカに問い掛けた。
「この方が姫様なのですね」
「ああ」
アイラはきょとんとして周りを見回す。
こんなに人を見たのは初めてだったのかもしれない。ナシカは少しだけ切なくなった。でも、これからは違う。一緒にいられるんだ。
「ナシカ?」
「一緒に、ここから出てくれないか?」
その言葉に、アイラは嬉しくなって、笑顔でうなづいた。
「じゃあ、あの話の続きを聞いてもいいですか?」
「いえ、少しだけ待ってくれないか。ほんの少しだけ。」
「何故?」
純朴な目で見られて、心臓が跳ね上がる。
ああ、これが幸せだと、ナシカは胸にこみ上げてくる熱いものを感じた。
「あなたとこれから作っていこうと思うからです」
勇気と真実と闇と心の物語。
終わりは始まりだ
吟遊詩人の歌はこれで終わりです。