三つ目のお話
分かっているつもりだった
父が私を愛していないことくらい
全然平気だった
私は平気
豪華な間だった。
ここは裏隠しの間と呼ばれる部屋である。 中央には円卓の騎士を思わせる丸い机が置いてあり、王座には金、銀などが散りばめられた椅子がある。赤い絨毯ももちろん健在だ。
「お前がアイラか?」
愛情なんか全く感じない声。低くて、がっしりしていて、意志の強さが窺わさせられる。
そんな声。私はわかっていたから、
「はい。そうです」
つらくなんか無い。
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部屋の雰囲気を察して、挨拶をするナシカ。
「おはようございます、アイラ」
いきなり彼女は癇癪を起こした。会ったのは数回だけだったが、今までに無かったことに少しだけ驚いた。
「ねぇ、ナシカ。敬語はやめて!」
「あなたが望むなら」
彼女は押し黙ってしまった。ごめんなさいと呟くのが耳に届く。
髪は顔を隠していた。何気なく顔にたれている髪をすくい上げる。目蓋は濡れ、赤く腫れ上がってしまっていた。
「私には、あなたしかいません」
そうとだけ言って、後は沈黙が流れた。
暗い喜びがあった。
ナシカは、悲しそうな顔をしているアイラを見て、捕らえられた。
ああ、堕ちるとはこういうことを言うのだと知った。
「泣かないでください」
でも、私を見てください。
「私にも、アイラだけだ」
あなたが望むのなら、敬語だって止めるし、何でも手に入れてやりましょう。
「ねえ、アイラ」
「お話をしましょう」
そういって彼は、彼女に淡々と話し始めた。
あるところに一人のお姫様がいました。
可愛らしく、素直なお姫様。
そのお姫様は意地悪な継母に何もかもを取り上げられてしまいました。
地位、財産、そして父親さえも。
ただその継母は命だけは取らなかったのです。
ただいじめるためだけに。
実はその継母は悪い魔女だったのです。
国王を操り、自分の世界を作り上げようとしていたのです。
ある日継母はお姫様に一人の男と会わせました。
お姫様の婚約者だと言って。
その男は地位はありませんでしたが、騎士でした。
ある日、泣いているお姫様を見てその騎士は心の中で誓いました。
私は彼女を愛している。だから命尽きるまで戦おうと。
少したちました。 その日は町のお祭りの日。
町はざわざわとしていて活気がありました。 その日に革命は起こったのです。
その継母に対抗した騎士団です。
騎士団は継母に勝つことができるのでしょうか?
それとも、死ぬだけなのでしょか。
「続きはわかりません」
彼の話は終わった。そして彼は部屋から出て行った。
明日は祭りの日。アイラはただ呆然と、彼の後姿を見ていた。
「ナシカ……」
傍に居て欲しい。けれど、止められなかった。
詩と史と志と死の物語
決意は裏切りだ