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始まりのお話

 このお話はずっとずっと昔のお話です。


**


「アイラ。こちらへ来なさい、アイラ」

 静かな、閉ざされた牢の中で私は返事をする。

 目の前にいるのは、ピンヒールを履いた化粧の濃い女性だった。

「はい。何でしょう?」

「まだ生きていたのね。しぶといわ。今日はあなたに人を紹介しにきたのよ。あなたのお父様はなんて優しいのでしょうね!」

 うるさい女だ。もういいでしょ。ほっといて!

「はい。とても嬉しいです」

 表情は固いままで、知っている限りの丁寧な言葉を並べる。

「つまらないわね」

 底意地の悪い笑みを浮かべたまま、彼女は後ろを振り返って手招きをする。

 彼女は、私の言葉なんか耳に入っていないようだ。

「おいでなさい」

 ぞっとするような、艶のある声を聞き、私はこれから起こることに恐怖した。いままで、彼女が何かするときに、私が無事にいられたためしは無い。

「失礼します」

 私でも、彼女でもない、第三者の声がした。

 ぬっと、薄暗い闇の中から一人の男が現れた。

「ナシカと申します。どうぞ、おみしりおきを」


 デカブツカタブツどっかいけ。


 アイラより二つぐらい年上だろうか。童顔で、金髪に真っ青の瞳をもち、背は170センチぐらいだろうか。ただ笑いもせず、簡単な形式上の言葉を発する彼に、アイラはため息を吐いた。

「私は忙しいから失礼するわ」

 そう言ってあの女は姿を消した。決して口元の笑みは消さない彼女に、体が冷えていく。何がそんなに楽しいのだろうか。私の不幸? これから起こることへの期待?

 それに、彼は一体何者なのだろう。

 不安からか、先に話しかけたのはアイラだった。

「ナシカ様は、どうして私のところへいらしゃったのです?」

 正直、別にどうでも良かったけれど。どこかの軍人であるだろうことは、おおよそ想像がつく。

「あの……。私はアイラ様、貴女の婚約者なのですが」

 ナシカは怪訝な顔をして、そう答えた。

「え!?」

 これにアイラは驚いた。初めて会う人が婚約者で軍人で……。私は、どこまでイジメを受ければいいのだろう!?

「もしかして知らなかったのですか?」

「はい」

 彼は、私の言葉を聞き、真っ青になった。


 オコッテイル?


 アキレテイル?


 ワタシヲナグル?


「アイラ……様……」

 どうして、そんなにも悲しげなのだろうか。

「あなた様は私に愛していると言えますか?」

「え……」

「私は言えません。そして貴方も言えないと思います」

 私は愛されたことなどあったのだろうか……? そんな人間が人を愛せるわけが無い。

 昔読んだ本のお姫様は、可愛く幸せそうだったけれど。優しいお父様に、素敵な王子様。そんな夢物語を、私は得られるなんて思ってない。

 すると彼は声を出して笑いだした。

「え……!?」

 これが笑顔というものなんだろうか。アイラはなんだか恥ずかしくって頬を膨らませた。

「強気な女性は好みですが……」

「はあ!?」

 いきなり爆弾発言をされ、もともと対人に対するキャパシティが高くないアイラは、混乱に陥った。

「ではお聞きしますが、アイラ様は愛していると言われたいのですか?」

 そんなこと……。アイラが答えられずにいると、ナシカはふと優しい笑みを漏らした。

「わかりません」

 でも、求めている気がした。ナシカが笑ってくれると、胸の奥がきゅっと締め付けられる気がした。

 それは同時に、絶望でもあった。

「もう、会うことはないでしょう」

「何故ですか?」

「何故って…」

 父は、あの女は、この男をまた私に会わせてくれるだろうか。……わからない。

「私はアイラ様に興味が湧いたので、また来ます」



あるお話の始まり


火と妃と陽と悲の物語



出会いは別れだ

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