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昨日はひどい目にあった。
もう、あんな事はご免こうむりたい。
茶色の髪を持った、あの男性はいい人っぽかったけど貴族らしさがあったから嫌だし。
赤い髪を持った、あの男性は肉食獣のようで鋭い目をしていた。思い出すだけでぞっとする。
買い物しなおして帰って事情を説明したら、「災難だったねぇ、」ってマルサさんが言ってくれた。
全くだ!
あ、余談だが、買い物したものの中には、私が料理するものも入っているのだ。
私がこそこそとつくっていた日本料理を、マルサさん達が食べておいしいと言ってくれた。
それだけで嬉しかったのに、お店の料理にしようとまで言ってくれたのだ。わお!
厨房の人たちに色々な料理を教えてあげている。これが結構楽しい。
こんな風に、楽しい時間が過ぎていく事は良い事だと思う。
明日の式典も、楽しければいいんだけど。
まあ、そんなわけで、今日は朝早くから式典という事で朝食を食べにくるお客さんが多い。
いろんなところから来てる人がいるので髪の毛も色々な色がいつもよりいて、見てて面白い。
でも、目、を見ながら喋っていると、善人ばかりじゃないようで気をつけなくては、なんて思っている。
というか、午前中に行われる予定だった式典は、午後に変更されたらしい。
何か不備でもあったのだろうか?まあ、知ったこっちゃないけど。
で、ここで問題。というか、やばい予感がする。
開店したころから今まで、あ、今っていうのは私の居た世界で言う10時ごろなんだけど。
ずーっと、隅に居座っているお客さんがいる。
そのお客さんが、どーも昨日の輩と同じようなにおいがする。
要するに、貴族っぽいってことだ。
あーあー、なんでこんな場所にいるんだお貴族さまが。
とりあえず、問題を起こさないように。なるべく関わらないように。
そんな事を考えながら、その危険人物へと注文を取りに行った。
「ご注文は?」
「キシュカのパイとハルヴァのパフェ、ヴラウンティー。」
「……キシュカのパイとハルヴァのパフェとヴラウンティー、以上で宜しかったでしょうか?」
「ああ。」
甘いもんばっかり。甘党なんですね、お兄さん。
すっぽりとかぶったマントからこぼれ出ている、肩に届くぐらいの銀髪が美しい人だ。
先ほど注文を承った時に見たが、綺麗な灰色の目をしていた。
全く、貴族には美形が多いのだろうか。庶民の女の子が騒ぐわけだ。
注文をマルサさんに伝えて、出来上がったものをミリアが運んで行こうとしているところだった。
さすがに三品はまだ重いのだろうか、ちょっと手元がふらふらとしている。
…おいおい、危ないぞ?お客様にぶちまけてくれるなよ?
嫌な予感がする。大抵こういうときは予感が当たるんだ。
ふらついたミリアちゃんは、床のきしんでいるところに躓いて転んでしまった。
放りだされたキシュカのパイとハルヴァのパフェとヴラウンティーは吸い込まれるように銀髪のお兄さんに向って落ちていく。
ガシャーン、!という音と共に、デザートたちがあの銀髪のお兄さんに降りかかる。
ミリアちゃんは真っ青になっておろおろとしている。
…………………………やっちゃったよ、おい。