太古の記憶
今日も太陽は見えなかった。
太陽が見えなくなって、どれくらいの月日が経っただろうか。
ヤヤは乳飲み子を抱きながら、空を見上げた。
恐ろしいようなどす黒い赤と紫の夕日の空が一面に広がっていた。血の色みたいだ。もう何度も繰り返し見てきたが、見慣れることはない。何度見ても不気味でもあり、同時に自然の神秘さや美しさを感じる夕焼け空だ。
ある日から、ずっと曇りが続いている。
昨日も、その前も、その前も、ずっと……。
誰にも理由はわからない。誰も知らない。
ヤヤの目の前にははるか遠くまで黄金色の平原がずっと続いている。乾いた冷たい風がサラサラと枯れかけた草を撫でる。
その向こうには、海が見える。薄暗いため水平線と空の境もよく見えない、あやふやだ。
そろそろこの子の父親が食料を持って帰ってくる頃だろうか。まだ人影は見えない。貝をとりに行ったもの達が今日も無事に帰ってくることをヤヤはそっと願う。
「ヤヤ、火にあたったら。」
さっきまで木の実を砕いていたタタがヤヤを呼んだ。
洞窟の入り口で冷たい風に当たっていたので、そろそろ温まったほうがいいかもしれない。
ヤヤは火に近づくと、先程までの恐ろしい夕日とは違う火の赤色にほっと心が温かくなるのを感じた。
火の回りでは女たちが夕食の準備をしている。タタは今度は根菜類を切っている。
ヤヤは炙った木の実を口にした。香ばしい香りが鼻を抜ける。
食べ慣れたそれだが、今日も食べ物があることがありがたいと思う。
じきに、海から男達が帰ってきた。食料を持ち帰ってくれたもの達を労う。ヤヤは男達に、洞窟の奥で溜めたダチョウの卵に入った水を渡す。
今日の収穫は貝、海藻、魚もある。ヤヤは楽しみになる。
「採ってきてくれてありがとう。さっそく焼きましょう」
パチパチと貝や魚が焼ける音がする。食欲をそそる美味しそうな香りが漂ってくる。
「帰る途中、動物に蹴られそうになったよ」
海に行っていたトトがそんなことを言いながら、足で動物が蹴る真似をする。
無事でよかったとヤヤは思う。
家族の笑い声が洞窟内に響く。
皆が寝静まった頃、ヤヤは洞窟から夜空を見上げた。
満月から少し欠けた月の光が、薄曇りの奥にうっすらと見える。月の周りには複雑な色がもやもやとにじんで見える。
あと何日かは、おいしい貝が食べられるだろうか。
ヤヤは願う。月に、太陽に、星に、水に、風に、木々に、大地に、花に……
子どもたちが大きくなれますように。
明日も食べ物が採れますように。
明日こそ、太陽が見えますように……。
初めての投稿です。




