オスライオンの気迫
俺達兄弟は母の後ろに隠れた。
何故ならば、奥からとてつもない凶悪な顔をしたオスライオン達が来ているからだ。
なんだよコイツら。
めちゃくちゃ怖いじゃねーか。
生で、それもこんな近くで見ることなんかないからその迫力に圧倒されてしまう。
皺くちゃだらけの凶悪な顔に、フサフサの立て髪、恐ろしい程に尖った牙に、デカイ身体。俺の身体と同じくらいの大きな手。
メスライオンより一回り以上大きいじゃないか。
現に、母の家族であるメスライオン達も、オスライオンが来ると道を開けている。
オスライオン達は母の目の前までゆっくりと歩を進めてきた。
そして、何も発さずに俺たちを見下ろしている。
この沈黙が怖い。
まさか、食べないよな?
ライオンは共食いするのか?
ライオンの情報が全然ない。
とにかく、いまの俺たちにできることは母の後ろに隠れて何もないことを祈るばかり。
そして、少しの沈黙の後にオスライオンの内の一頭が母に頭を擦り付けた。
母さんも同じ所作をするが、メスライオン達とやった時とは何やら違う。
何が違うと言われれば困るが、嬉しくなさそうというか、イヤイヤやってる感じがするのだ。
なるほど、母さんもコイツらの事が好きじゃないんだなとすぐに理解した。
すると、オスライオンの一頭が口を開く。
「よく我が子を産んで無事に戻ってきたな!待っていたぞララァ。 お前がいないと餌の量が少なくて敵わん!育児なんか他のやつに任せてお前は狩を頼むぞ!ハッハッハッ!」
「全くだぜ!そもそも兄貴がララァを妊娠させるのが悪いんだよ!だけど、それも今日で終わり!明日からまたたらふく食べれるな!兄貴!」
俺は無意識にオスライオン二匹を睨んでいた。
なんだコイツらは……。
母さんをいったい何だと思ってる。
そして、俺達を何だと思ってる。
こんなやつがこのプライドの頭だと?
許せない。
母さんを侮辱しやがって。
その時だった。
俺の身体は吹き飛んでいた。
いったい何が起きた?………いや、ずくにわかった。
オスライオンの兄貴の方に殴られたのだ。
オスライオンが恐ろしい形相で俺を睨んでいた。
「おいガキ!!!てめぇ、親に対して何睨んでんだ?!生まれたばかりだからってなんでも許されると思うなよ?あぁッ?!!!」
どうやら、怒りのあまり、俺は表情にも出てしまってい
たようだ。
くそっ、、、いてぇー。
生まれてまだ一ヶ月の赤ん坊を普通殴るか?
なんとか、母が俺とボスの間に入って謝ってくれている。
だが、俺の記憶もそこで遮断された。
どうやら気絶したようだ。
どのくらい眠っていたのだろうか。
俺は痛む身体をゆっくりと起こす。
「大丈夫?アラン。ごめんなさい。彼がああいう人間だから気をつけてと伝えるべきだったわね」
母が俺に謝りながら身体を舐める。
母さんのせいじゃない。
悪いのはアイツだ。
くそっ。
大きくなったら絶対噛み殺してやる。
生憎と俺の脳は年齢相応ではない。
痛みよりも怒りが勝っていた。
母に舐められながらも鋭い眼光で遠くを見つめていると、知らない声が聞こえてきた。
「威勢がいいな坊主」
なんと、すぐそばにオスライオンがもう一頭いたではないか。
俺の頬を冷や汗が伝う。




