ノマド
しばらく走ったが、まだ後ろから咆哮が聞こえる。
ハンが俺達を逃すために戦ってくれているんだ。
俺達を逃すためにハンは死ぬんだ。
俺はもちろん、リリィやカイルも涙を流しながら見知らぬ土地をただ走りまくる。
振り返ってはいけない。
止まってはいけない。
ハンが作ってくれたこの時間を無駄にするわけにはいかない。
俺達三頭はただひたすらに走り続けた。
夜であり、暗闇の中をひたすら。
だが、天は俺達三頭にまだ試練を与えてくる事となる。
後方から気配を感じた。
もちろんリリィとカイルも気付いた様子。
後ろからたくさんのハイエナが走ってきたのだ。
何故、俺達を追う?
もう小さな身体ではないし、俺達を追っても何のメリットもないはず。
だというのに、ハイエナ三十頭近くが俺達兄弟に迫っているのだ。
「姉さん!カイル!足を止めるなよ!」
俺は二人を鼓舞して走る。
ライオンはそこまで体力がある方ではない。
それに速度だってそこまで速い方ではない。
少しでも緩めればハイエナの波に飲まれ嬲り殺されるだろう。
「私は大丈夫だけど、カイルが!」
俺はカイルの方を見る。
確かにカイルは何故か生まれつき体力が少ない。
兄弟で遊んでも毎回一番最初にバテるのだ。
恐らく生まれ持っての事だろう。
カイルは少しずつ俺とリリィから距離が開いている。
このままではカイルは捕まる。
とはいえ、戦っても数の暴力に負ける。
カイルを置いて逃げるか?
否。
家族として、兄としてそんな事はできない。
「姉さん!カイルを連れてこのまま逃げてくれ!」
「アランは?!」
「俺は奴らを惹きつける!!!」
「そんな事をしたらアランが!!!」
「大丈夫!俺にはまだ体力に余裕があるしスピードだってまだあげられる!このままだとカイルが殺されるよ!」
リリィもアランの無尽蔵の体力は承知の上だ。
それに、このままだとカイルは殺される。
リリィは苦渋の選択をするしかなかった。
「ごめんねアラン………でも、絶対生きてまた明朝会うわよ!!!」
アランはその言葉に力強く頷き、カイルより後ろに下がりそのままハイエナを引き連れて左の方へとただ一頭走り抜けた。
「なんで追ってくるのか知らねーけど、俺の体力舐めんなよ!」
アランはリリィとカイルを守るためにただ一頭で囮となり明後日の方へと走るのであった。
場面がかわりアラン達の元プライドでは………。
「いい加減放しやがれ!」
ハンが前にいる一頭のオスライオンの首元をずっと噛んだまま離さないのだ。
とっくに彼は呼吸ができず絶命しているが、ハンはその口を緩める事はなかった。
他の二頭に身体を噛まれ、ボロボロにされているのにだ。
そこで彼等のボスであるドーラがハンを噛んでいた口を離して話す。
「違う。こいつも死んでやがる。いや、コイツもとっくに息切れてたんだ。死んでも尚、噛んだ顎を緩めなかった。敵ながら見事な奴だ」
ドーラの言葉にもう一頭も口を離すと確かにハンから呼吸音は聞こえないし微動だにしなかった。
そして、ハンも役目を終えたのがわかったのか、相手の死体から口を離してその場に倒れた。
「ドーラ、どうする?仲間をやった仇だ。死んだとはいえハゲワシのエサにしちまうか?」
ドーラはしばらく沈黙してハンを見つめる。
「………いや、丁重に葬ろう。ここまでの相手はなかなかいない。フサ、穴を掘れ。タスキの死体も入れてやろう」
ドーラは死んだ仲間のタスキとハンの遺体がハゲワシに食べられるのをよく思わず、フサに穴を掘らせ土葬することにした。
そんな姿を見ていた、ララァやメスライオン達もハンの勇姿を称えるために、敵であるドーラ達と共に穴を掘る。
メスライオン達の皆が涙を流しながら掘る姿にドーラとフサは何も言わずただ掘るばかりである。
アランの兄貴分でもあったハン。
四歳という若さで戦死した。
プライドを守るわけではなくアランを守るために。




