脅威
いつもは距離をとって寝ているオスライオンである双子のバリとバル、そしてハンも今回は流石にメスライオンの咆哮に寄ってきた。
「とうとう来やがったか。相手は何頭だ?」
バリがメスライオンに尋ねる。
「三頭よ。ノマドね」
ハンに教えてもらったが、ノマドとは放浪ライオンの事だ。
オスライオンは二年過ぎると大体プライドを追い出される。
近親交配を防ぐためや、反乱の種を残さないためだ。
確かに、俺だったら大きくなったら双子を殺そうと思うだろうしな。
これは仕方ない。
とはいえ、ノマドが三頭もいるとは。
俺達子供は母の後ろに隠れる。
「さぁ、このプライドの存続はあなた達にかかっているわ。頼むわよ。子供達のためにも」
メスライオンのリーダーであるおばあちゃんがバリに喝を入れる。
「わかってるよ!!!お前らはそこで俺様の勇姿を見とけバカ!」
バリはどこか緊張しながらも自分を鼓舞して奮い立たせ前に歩み出る。
そして、弟のバルも続き、ハンも俺をチラッと見ると微笑み、気を引き締めて前を見据えた。
双子はともかく、ハンはきっと強い。
不安になりながらもどこか勝てるだろうと安心しながら相手が来るのを待つ。
しばらくすると夜の闇と共に三頭のデカいライオンが眼前まで現れた。
大きさはさほど双子やハンとは変わらないな。
これじゃあ見た目での勝敗は予想がつかない。
あとは筋力と技術かな。
相手の姿を見てそう考えていると、まずはバリが口を開いた。
「てめーらノマドだな!ここは俺様、バリのプライドだ!痛い目に遭いたくなかったら大人しくさがりな!」
おぉ、腰抜けかと思ったら意外と異性がいいんだな。あれでもいちを父さんだからな。情けない姿を見せないでくれてよかった。
てっきり、敵の姿を見て逃げ出すと思ったが、そうではなかった為、ホッとした。
だが、バリの勧告は通じない様子。
相手の三頭は笑っていた。
「さがるわけないだろ?お前ら双子の噂は聞いている。お前ら雑魚がプライドを持つなんて勿体無いだろ。だから、俺達が代わってやるんだよ。お前らこそ痛い目に遭いたくなかったらさっさとこの場を去れ」
えっ。この双子って弱いで有名なの?
マジかよ。
いつも威張ってるくせに雑魚とかマジで存在意義無 くなるぞ。
これはまずい。
ハンだけが頼りじゃないか。
双子はそれが事実であり悔しいのか唸っている。
唸っているだけで何も反論できていない。
なんと情けないんだろう。
更に相手のライオンが口を開く。
「おい、そこのオス。そんな雑魚といないでこっちに寝返ればお前の命は助けてやる」
ハンに向かって相手のボスであろうライオンがそう話した。
確かに双子が弱いとすればこの戦いは負け戦。
双子のために自分を犠牲になんてしたくないだろう。
ましてや、ハンの子供はここにはいないのだから。
まずいぞ。
これは俺達も命をかけて逃げないと。
そして、ハンは微笑みながら口を開いた。
やばい。笑ってる。
やっぱり寝返るんだ。
仕方ない。
ハンは悪くない。
全て双子が悪いんだと俺も思い、兄弟達に逃げようと話しかけようとしたその時
「それはできねーな。ここには守らなければならねーものがある。俺はソイツの未来が見てー。そいつは俺の命を賭けるに値する。だから、逃げらんねーな」
ハン………。
俺の頬を涙が伝う。
いやだ。こんな事なら逃げてくれ。
万が一ハンに何かあったら………。
そう思ってると戦いはいきなり始まった。
「ならみんな死ね!」
一斉に相手の三頭が双子とハンに飛びかかる。
だが、双子とハンも負けじと飛びかかった。
オスライオン同士の戦い。
動物同士の戦いは狩で何度も目にしてきた。
だから慣れているつもりだった。
だが、これは全くの別物。
オスライオン同士の戦いの迫力に圧倒され恐怖した。
足腰がすくんで動けないのだ。
響き渡る怒声に大きく振るわれる手。
ハンの振り上げた右前脚が相手の顔面を殴りつける。
だが、相手も負けじとハンの顔面を殴りつけていた。
これがおすライオン同士の戦い。
そしてプライドを賭けた戦い。
俺は初めて見るその光景に目が離せなかった。




