第二章過去と家族その3
奴(慧)から話を色々聞き、昂良は今までの疲れがどっと来た。この一日がえらく長く感じた。あの話はぶっ飛んでおり、信じられないと思ったものの、嘘をついている訳でもない。そして、その話を信じてしまう隊長の人柄の度量の深さに、昂良は度肝を抜かれた。そう色々思い出しながら、昂良は意識が遠のき眠りについた。
次の日、昨日のルームウェアが変わっているのに気づいた。これは慧がチェンジしたときに着替えたのだろう。送別会をするからと慧は言っていたので、昂良が帰ってくるときに服が何だったのか分からなかったのだろう。軽い身支度と朝ご飯を済ませ、昂良は家を出たが、彼女(雫)の姿は居なかった。先生には、親戚の集まりということにして誤解を解いてもらった。しかし、そう簡単に収まるのがこの世ではない。噂と真実があれば、噂の方を信じてしまうらしい。なんとも虚しいことだ。案の定、幼馴染の彼女は親戚の集まりが嘘だと気づいていた。「なぜ先生に嘘をついたの?」と言い寄られ、昂良は真実を言うべきか、嘘を教えるべきか迷った。結局何も出来ず、雫は帰ってしまった。しかし、あの時は仕方なかった。オリュンポスの皆に相談できなかったからだ。そのことに彼女は呆れたのだろう。いつもどおり教室(幼馴染みがいないが)に入ると、昂良の方に視線を向けてくる者がいた。それを無視しながら、昂良は自分の席へ向かった。昂良が座ると同時に、斗真が前の席についた。
「今日は一緒に登校じゃないのか?」
「うるせぇ」
「まだ仲直りはしてないのか?」」
昂良は生返事で答え、表情が暗いままでいた。斗真がなぜ知っているのかというと、昨夜、雫から「昂良に逃げられた」というLINEでやり取りしていたからだ。そのため斗真も、親戚の集まりではないということを知っている。
「別に俺に言わなくてもいいから、本当のことを話せよ。」
「でもなぁ...」
「でないとずっと誤解されたままでいるぞ。まっ、それに関しては自分で解決することだな。なぁ! それより俺が送ったやつ聞いたか? AJRのーー」
斗真の言うことはごもっともだ。何も言い出せない自分が情けなく見えてしまう。しかし、昂良はもっと相談したかったが、先生が来てしまったため、それ以上話すことができなくなってしまった。時に身を任せ昼休みになったが、昨日のことが嘘みたいに、誰も寄ってこなかった。昂良は、一体誰のおかげだろう? と考えた。しかし、放課後になっても何も起こらなかった。今日は金曜日、彼女は部活で一緒に帰れないわけだが、昨日のように追い詰められるのだろうか。真面目な彼女に限ってそんなことはないだろう。昂良は昨日言われたことを思い出し、集合場所のビルへと向かった。ビルの勝手口から向かうと、入口の横に隊長さんの姿があった。
「やぁ、待っていたぞ。さぁ入りたまえ。」
「ありがとうございます。」
適当な挨拶を交わし、中へと入った。その瞬間「プチッ」という壊れた音がしたが、足を上げても何もなかった。だが、それを吹き飛ばさせる空間がそこにはあった。いつ見ても心が踊るような基地は広がっていた。昂良は、昨日の会議室の所ではなく、隊長の部屋に行った。そこには、壁に写真と、来客用の机と椅子があった。
「では座りたまえ。」
隊長と真正面に座った。
「昨日の補足を話しておこう。時間がなかったので省いたが、モンスターズについてだ。」
昨日聞いた、テロを起こそうとしていた人達のことだ。一体何がきっかけで、テロなんか起こそうとしたのだろうか。しかし、昨日いくら調べても何も出てこなかった。これだけの事を秘密にしておけるオリュンポスは、とても凄いと昂良は感心した。
「奴らは元々アメリカの軍人だということが分かっている。それに、特殊部隊なのだが、詳細は分からない。」
「聖人のような軍人が、そんなテロ行為を?」
隊長は御手上げだと言わんばかりに、手を上げた。
「さぁな、真相は定かではないが、サウジアラビアでなにか起きたことは確かだ。私の人脈を持ってしても、それを見つけることができなかった。」
この隊長の人脈はどのくらいなのか計り知れない。昂良は、敵に回したくないタイプだ、と思った。 隊長は席を立ち、パソコンを取り出した。そして昂良に見せるように置いた。
「モンスターズだが、今はこれくらいしか居ない。」
そう言うと、次々と顔つき写真を見せてきた。確かにアメリカの軍人というのも相まって、ゴツい体つきで、アジア系の顔付きは一人くらいしか居なかった。
「ーー最後の写真だ。」と言い、画面が切り替わると見覚えのある女性が写っていた。
保健室の先生だった。昂良は信じられなかった。あの皆に親しまれていた田中先生が...。田中先生は学期毎の初めにカウンセリングをしていた。一人に割く時間は少ないにもかかわらず、精神的に違和感がある生徒には積極的に寄り添っていった。それで、救われたという声もしばしば聞いている。あるいは女神に救われたと大げさに言っている人もいた。
「その人、見たことがあります。」
「何? 一体どこで、」
隊長も昂良と同様、驚いていた。だが、驚いている裏では怒っているように感じられた。原因はおそらく、慧がこのことを報告しなかったからだろう。
「保健室の先生をやっております。どうしましょうか。学校に攻めますか?」
「いや、君とエイションは瓜二つだ。相手も分かって敢えて何もしていないのだろう。しかし、彼女が、君を放って置く意図が読めん。」
テロリストなのに人を助ける? なんの冗談だ。敵を潰すチャンスがいくらでもあったというのに、単なる馬鹿とは考えにくい。だとすると、何か理由があって……
「彼女とは極力避けてくれ。わかったな。」
昂良は縦に首を振って了解の合図をした。
「この件は、一旦保留にしよう。さて、来週の月曜日からこのオリュンポスは正式な組織になる。それに伴って、異能力者だったのが、異能力者と言う風に変わる。」
「なんで変わったんです?」
「元々、呼び方に決まりなんてなかったしな。あるところだと邪神なんて言う所もあったからなぁ。それはそうと、理由はメディアを抑え込むのが難しくなってきたためと、犯罪の抑止力の目的もある。」
「分かりました。今日伝えたかったことはこれくらいですか。」
「あともう一つある。君が仮に入るにあたって、ある程度鍛えておかなくてはすぐ死んでしまう。ということで、教官としてアテーナと訓練をしてくれ。話は以上だ。」
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