第二章過去と家族その6
電話を切った。アテーナと彼は、銀さんの職場から鈴木の住居へと足を向けた。職場体験でお世話になった鈴木の上司である高橋に出会った。
「おー、久しぶりだな。元気にしてたか? なあ、向こうから走ってくるのが見えたが、何かあったのか。」
「ええ、そうなんです。今、鈴木はいますか?」
「ああ、昨晩急に用事ができたから、今日休みたいと言っていたな。」
彼はアリーナと視線を合わせ、互いの目には確信の色が深まっていくのがわかった。
「高橋、どんな用事か言っていましたか。」
「聞いてない」と答えた高橋の言葉から、彼は鈴木が住み込みで住んでいることを思い出した。部屋に何かあることを願い、入室許可をもらった。
中は整理整頓されていたが、所々にファストフードのゴミが散らばっていた。部屋の奥には、明らかに一つだけ大き過ぎるピザの箱があった。蓋を開けると、ピザの油が付着しているはずが、不自然なほど何も残っていなかった。
彼はアリーナを呼んだ。「こっち来てください。ピザなんですけど、注文履歴がマルゲリータなのに一滴も油がついてない。」アリーナは「ちょっと貸して」と言い、特別な捜査用スマートフォンを取り出し、カメラのフラッシュを照らした。すると、壁に映し出された影が、まるで斧の形に歪んで見えた。
「トッピングは赤いシミですか? ま、これで確定ですね。」
「さて、今のジョークは置いといて。ここから標的をどう探す? この日本一大きいとされている住宅街で。分かっていることは身長がでかいってことよ。それに、一つ一つ探したらもう手遅れになるわよ。」
彼は辺りを見渡して何か手掛かりになるものがないか探した。次の標的だと思われる写真を見つけ、そしてふと気づいた。
「過去の三人の被害者は、全員がサラリーマンだったよな。」
「そうなると、サラリーマンが集まるような会社はこの周辺にはないし、、、」
「「駅だ!!」」
彼らは部屋を勢い良く飛び出し、銀さんに駅周辺の監視カメラを調べてもらった。数分前に次の標的を尾行している様子が映っていた。幸いにも、鈴木はこっち側の東に来ていた。銀さんは警察を連れてくるらしいが、待っている時間がなく、彼らは捜索していた。こっち側に限定されていたとしてもかなり広い。しかし、殺す場所ならかなり限られる。薄暗い裏通りや、人気のない公園、そして、誰もいない駐車場など、ありとあらゆる場所を捜索した。もう手遅れと思っていた矢先、左の曲がり角に、首を掴まれ体を持ち上げられたサラリーマンの姿が見えた。その隣には、逆の手で斧を持った作業着の男がいた。
「武器を捨て、その手を放して投降してください!!」その声を聞いた男は顔をこちらに向けた。推測が的中した。それは鈴木だった。
「鈴木!なんでこんなことをするんですか?!」
「君は、確か…職場体験の時の子だな。警官ごっこしているならどっか行ってくれ。」
「…あなたはこんな人じゃない。心の優しい人です。」
憎しみに満ちていた顔がたちまち悲しそうな表情になっていった。
「お前に何がわかる? 虐待された傷の痛みを裏切られた気持ちを」
表情と同じくその言葉にも悲しみが伝わってきた。
「どんな出来事であなたがそうなってしまったのですか。」
彼は、鈴木が答えてくれようがくれまいが、せめて応援が来るまで時間稼ぎができれば良いと考えていた。鈴木は持ち上げていたサラリーマンを手放し、こちらに体を向けた。
「君には分かってほしい。この落ちぶれた人たちを。人は変わるという人や逆のことを言う人だっている。しかし人が変わるのは表面上でしかない。だから本質的なものは変わらないのだよ。」
「わかりませんよ、説得すれば変わるのかもしれません。」
「そんな甘い考えで奴らが変わるとでも?! まぁ最初は君のような考え方だった。だが、ある日偶然にも仕事場の離れで、子供に暴力を振るう父親を見てしまった。その親は俺が最初に殺す依頼だった男だった。情けで、殺さないでやるから子供に暴力を振るうな、と約束したのだ。だが、己の鬱憤をぶつけるかのように暴力を振るっているのだぞ、許されることではない。だから俺は、依頼とは別で、虐待の容疑で不起訴になったものを殺しているだけだ!それのどこが悪い!!」
確かに、鈴木の言葉には一理ある。だが、人を殺すことによって解決できる問題など、この世に存在するはずがない。彼は反論したいが、漫画やアニメの主人公のように言葉がぱっと出てこない。この状況に慣れているわけもなく、彼は軽いパニックに陥っていた。何かしゃべらないと人質の命が危ないし、口止めとして殺されるかもしれない。頭を目一杯働かせて最善の案を考える。
「誰もが過去を背負って生きています。でも、過去にとらわれ続ける必要はありません。あなたは、人を傷つけることよりも、人を助けたいという優しい気持ちを持っているはずです。その気持ちを大切にして、新しい未来を築いていきませんか? だから武器を置いて、その人を放して。」
鈴木の顔に苦悩の色が浮かんだ。その表情の奥に、彼は何かを感じた。しかし、鈴木は何かを悟ったのか、表情が柔らかくなった。
「ここで殺さなければ、被害者はもっと苦しくなるばかりだ。俺は、止まらない。止めるなら全力でかかってこい!!」
左手に込められた力が強まり、人質の首が更に締められる。このままでは人質が死んでしまう。彼はサプレッサーの装置のスイッチを入れ、鈴木の腕のほうに照準を合わせた。彼の心臓が怯えて脈打つ。もしも外したら―。もし人質に当たったら―。恐怖で背筋が凍る。ある言葉を思い出す。「それをどう使うかは、君次第よ。」その言葉で覚悟を決めて、もう一度拳銃を握りしめる。照準を定め、ゆっくりと引き金に指をかける。
一瞬の静寂―。
引き金が引かれた。銃声が鋭く空気を切り裂く。弾丸は狙い通り、鈴木の腕に命中した。
痛みに顔を歪める鈴木。人質を手放し、傷口を押さえる。そして、顔を上げた瞬間、その目には獣のような鋭さが宿っていた。危機的状況だ。人質は一時的に救われたものの、このままでは彼が殺されるかもしれない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
もし「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、
ページ下の**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**
にして応援していただけると、執筆の励みになります! ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします!




