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一人ともう一人の自分

朝から目覚め、窓の外を観ると雲が一つも無い明るい空が見えた。体育祭や運動会の校長先生が言いそうなセリフを思い浮かべながら、昂良たからはベッドを出た。軽い身支度を済ませ、今日も洗面所の鏡に向かう。


自分の服を脱ぎ体を見ると、そこには不気味な傷痕が付いている。それは右肩甲骨からうなじの付け根にかけて走る、まるで誰かに切り裂かれたような、不規則な赤い痕だった。中学二年後半あたりから出始め、今では触れるとわずかに熱を持つことがある。ネットで調べても結果は現れず、ただの皮膚病やアザではないと分かっていた。この「痕」は、もう一人の自分、つまり『慧』の存在を可視化したもののように感じられ、昂良は鏡を見つめるたびに頭を悩ませていた。


「昂良起きなさーい! 朝ごはん食べて行かないと遅刻するわよー!」


母親に怒られた昂良は、慌てて脱いでいた服を再び着た。シャツの襟を上げ、傷痕を隠すことを意識しながら食卓に向かう。机にたどり着いた昂良は、彩りの良い朝ご飯を見て、悩んでいた気持ちが少しだけ晴れたような気がした。


朝食を終えるとチャイムが鳴り、インターホンの画面先には、昂良の近くに住んでいる幼馴染、七瀬雫ななせ しずくの姿が見えた。雫は、インターホン越しに早くおいでというジェスチャーをしている。それを見た昂良は、急いで制服に着替えて玄関の前で待っている彼女のところへ向かう。


雫は、彼の姿が見えた途端に顔の表情がパッと明るくなって昂良に、


「おはよう、鳳凰くん♪ 早く行かないと遅刻しちゃうよ!」


「おはよう、七瀬さん。待たせてごめん。」


「あらあら、二人共お似合いね〜♪」


「「ん・・・」」


(すっごく恥ずかしい、もう母さんったらいつもこれだ。慣れるわけないだろ)


母親に、ニヤニヤされながらも登校していった昂良だった。しばらく歩くと交差点が赤信号になり、二人とも足を止めた。少し周りを見ていた昂良の様子を見ていた雫が、鋭い目つきで何かに気づく。


うなじのあたりに傷ができているよ。どうしたの、鳳凰くん?」


(ヤバい! 昨日の夜か朝についた、『慧』の痕だ! 襟で隠しきれてなかった!)


昂良は、悟られないように努めて笑みを浮かべた。


「あ~昨日下校してた時に、何かものを拾おうとしたときに、小枝にでも引っかかったんだと思う。大したことないよ。あははは...」


「そう...。でも、ただの小枝の傷にしては、形が変だよ。」


雫の視線は鋭く、言葉の裏を探っているようだった。昂良はドキリとして、思わず襟元を手で押さえた。どうにかごまかせたのか不安だったが、それ以上雫が追及することはなかった。しかし、二人の間に流れる気まずい空気は、教室に入るまで終始続いた。


昂良が自分の席に着く。


「おはよう! モテモテ主人公くん♪ また雫ちゃんとラブラブ登校か?」


「何なんだよ〜斗真、朝からニヤニヤしてさ。」


「相変わらずラブラブだな! 傷痕、増やしちゃったみたいだけど?」


「うるさいよーだ!」


向かい合いながら友人の斗真と他愛ない喋り(斗真の「傷痕」に関する指摘は、昂良にとって再びの緊張を生んだ)をしていると、ホームルームのチャイムが鳴ると同時に先生が教室に入ってきた。


「はーい、みなさ~ん席についてくださ〜い」


いつもながら気のなく、髪はボサボサヘアーで徹夜をした様子が伺える神楽先生。教壇着いた否や、突然誰かが扉を勢い良く開け教室に乗り込んできた。


「慧! ここにいるのは、分かってるんだから! いい加減、私から逃げるのはやめなさい!」


モデル並みの体型と相反する胸の大きさが目立つ金髪の女の子が、怒りを露わに大きな声で叫んでいた。突然のことにクラス全員がざわつき始めた。それもそのはず、このクラスには《ケイ》と言う名前の生徒がいないからだ。


「お前だよ! お・ま・え! 惚けてんじゃないわよ!」


吐息を漏らしながら、彼女は昂良の方へと近付いてき、彼を指す。


「え、僕? あの、君と面識がないはずなんだけど、、、」


「しらばっくれるつもりか!! 昨日の夜、私を置いて先に《チェンジ》したのは誰よ!」


「本当に! 知らないよ、、、チェンジって何ですか?」


「は~ん、ここでは優等生キャラを演じてるのか。人前じゃ、まともに会話もできない設定?」


先生やクラス達も動揺が隠せるもなく、静まり帰ったが、すぐに「っえマジ最低、お前の彼女くらい覚えててやれよ」と野次馬が飛んできながらざわつき始めた。


「とりあえず、こっち来い。」


その意味不明な彼女は、女の子とは思えないほどの握力で昂良を廊下に引っ張った。一瞬だけ教室に目線を置くと、幼馴染の雫は、事態の急変に動揺し、不安そうな表情をしているように思えた。


校門を出てすぐの所で、僕は問い詰めた。


「そもそも、何故君は慧と言う人物と間違えるんでしょうか? 人違いにもほどがあります。」


「まだそれを言うか、さすがの私も傷つくぞ⤵」


「待ってください、僕が慧っていう証拠あるのですか? 証拠を見せてください。」


「あるじゃん、うなじのところに傷跡が! それ、私があんたを引っ張ったときに付けた痕だろ!」


今朝の傷跡(慧の痕)と、彼女がつけた傷が混同しているのか?昂良は不思議に思えた。


「何でこんな所に傷ができているのですか!!」


「ハアー⤵ あんた忘れたの! これを見ても思い出せないって言うの?!」


(ち、近い...パーソナルスペースがないのだろうか)


「命令無視して、突撃して行ったのあなたでしょう!! だから、そのとき私が引っ掻いたのよ!」


「だから近いです。」


「だって、(こんなに近寄っても反応しなかったのに可愛い反応になったからよ!)」


ボソボソ声で赤面させた。


「とにかくね! 会議があるんだ、急ぐぞ!」


「待ってください、会議ってなんですか? それに、生徒会にも入ってないですし、会議室は二階ですよ。」


彼女は、凄く呆れ顔で頭を手で抑えながらキレる寸前で


「はあー! 何言ってんの!あんた忘れたの?! 『オリュンポス』の緊急会議よ! 隊長がオリエンテーションをやるから8:30に集合せよとかなんとか言ってたから、ほら行くよ!」


何を言っているのか、さっぱりわからない。混乱した糸が更に絡まっている状態だ。


「ですから、本当に違うんですってば!!」


「そこまで違うと証言してるのならそうかもね、スッ...よく見たら髪の色が違うわ。慧だったら白髪だけど、あなたは黒髪だしね...あ~最悪。」


「焦った...いや本当に良かったよ。もしもそうだったら《《チェンジ》》ですよ。」


昂良が言った瞬間、何かが彼の中で反応した。


■精神の宮殿■

突然目の前が暗くなり、目を開けると、ブラックホールにいるかと思うくらい何も聞こえなく、真っ暗である。そこに一人の影が見えた。


「貴方は誰だ?! と言うか、ここはどこだ!」


「ここはお前の精神が具現化された宮殿とかかなア。そして俺がお前のもう一人の人格、慧だ。」


僕の目の前にいるのが彼女の言っていた、慧と言う人なのだろうか。それによく見ると、体格も顔がそっくりでまるで自分を鏡で見ているかというくらい似ているのだが、髪の色が真逆で白色だった。目は鋭く、生気を含んでいた。その目は僕に夏の光を思わせた。鋭く水中に差し込んで屈曲し輝いて散るあの夏の光のようだった。


「君は何処から来たんだ!!」


「《《外》》で喋る時とは、全然違うなア。いつもは敬語なのによう〜」


「当たり前だ! 自分の中に知らない人が入ってたら動物を追い払うように警戒するだろう!」


「まあまあ落ち着けって、俺はお前に作られたと言ってもいい。俺たちは、一つの身体を共有する裏表の関係さ。」


驚いて、フナのように口を開けたまま動かない。


「まあ、すべての発端を話すとしようかなア。てめぇが、父さんに約束を破られた時、一瞬自分が遠のいていくようだったよなア。その時、お前の絶望と怒りがカタチになり始め、俺が出来かけたって訳だア。」


思い当たる節があり、目が二倍ほどにも見開いた。


「そして、俺たちの父さんが交通事故で亡くなったんだァ。お前が耐えきれないほどの悲しみに潰されそうになったとき、俺が誕生したって訳だア。」


どっと悲しみに襲われた。だがこれで、分かった。この男の子は、正真正銘、僕から生まれたもう一つの人格だ。



■現実■

「おいおい、ずっと待たせ放しかよおい! しかも、催眠術にかかったみていによ〜たっく困ったりゃありゃしねぇ。」


七瀬はそっと息を潜むように、物陰にいた。


(いったい何をしているのかしら、鳳凰くんとその彼女さん? それにしても鳳凰くんは立ってるだけだし、彼女さんは怒ってるように見えるし、いったいどう言う関係なのかしら。)


偶然落ちていた木の枝を踏んでしまった。獲物を見つけたように、金髪の彼女、美優が七瀬の方へ振り向いた。


(うっわ〜こっちに睨んできたよ〜さすがに見つかったら何されるか分かんないしとりあえず戻ろう)


「誰だ〜? うーんまいっか!」


■精神の宮殿■


「なあ、あの外にいる女性は誰なんだ?」


「俺の相棒兼監視役さぁー、それに」


「それに?」


「いや、なんでもねぇ。なぜ監視役だということとなア” 俺の能力の性質上極  (まれ)によう暴走してしまうんだよう、だからそれを抑えるためにいるって訳だ。」 


「暴走? 何でそうなるんでそうなる?」


「中二病に聞こえるかもしれねぇけどよう、俺は放射線を吸収し、任意で出すことができる能力だア”」


「緑の大型ヒーロみたいだな。」


「いや、エネルギーが放出だけだア” まぁそういうやつもいるけどなぁ」


「いるのか。」


「まぁなぁ、それより早く会議に出ないと行けねぇんだ。」


お互いうなずき合い、数秒間見つめあったとき目つきを鋭くして口を開いた。


「どうしたんだア”」


「帰り方が、、、」


昂良は困惑して問い直した。それに切れた慧が


「《《チェンジ》》って言えばいいんだよ! そんなもわからないのかァ。」


「分かるわけ無いだろ。唐突にこの空間に来て、君の言うこと聞いてられない。」


「ほう~そうか、なら!!!」


相手に威嚇するように、拳を鳴らし一瞬にして僕の目の前に飛んできた。すると、空中回し蹴りで僕の胸を突いてきた。昂良は仰向けになり、慧は覆いかぶさった。そして最後の忠告を放った。


「さっさといえこのやろう。」


「、、、わかったよ。《《チェンジ》》」



■現実■

フラッシュを受けたのように背景が真っ白になり、目を開けると視界がかすみだんだんと、見えるようになっていた。そして、意識が戻ってきた昂良こうらの前には、腕を組みながら待っていた美優の姿があった。


「慧! やっとを起きた? さっさと行くわよ!」


「ちょっと待って下さい。」と僕は混乱を覚えながらも、この状況を理解しようとした。そして、思い切って告げることにした。


「「実は、僕の中にもう一人の人格がいるようなんです。今お会いしたばかりなのですが、その人格が『慧』さんで、彼には特殊な能力があるみたいなんです。」


「はぁ~~そいうことねさあ、行きましょうか。」


はかなり困惑した。自分でも信じられないようなことを言っているのに、彼女はあっさりと受け入れたのだった。どうしてそんなに簡単に信じるのか聞いてみると、


「今から私達が行く、オリュンポスって言う組織では、一般の人間じゃ無く、あんたみたいな特殊能力を持っているの。それじゃ行こうぜ!」


しばし彼女についていくこと20分、隣町の路地裏に着いた。


昂良は、こんな所へ何をするのか皆目検討もつかない。ほとんどの人はビルの入口から入るというのに。


「よし、ついたぞ。」


「ここがオリュンポスですか? 入口向こうですけど。」


何が起こるのかわからない状況で立ち止まる昂良に彼女は彼をなだめる。


「大丈夫 大丈夫、心配すんなって。」


そう言うと、ビルの壁に手をかざした。男心くすぐられるサイバー感溢れる開かれ方をする入口だった。


「ボサッとしてないで早く来い。」


言われたまま入るとビルの奥行きが嘘みたいに広く、巨大な宇宙船のドックのような基地だった。


「どうだ、ここがオリュンポスだ。すげぇだろ!」


「は、ハイすごいですけど、こんな広かったですか?」


「ああ、ここか? ここは別の空間に繋がっている。入口がポータルみたいな役割をしてんだとよ。」


「なるほど・・・」


適当な返事をし、近未来にいるかと思う基地をじっくりと目に焼き付けた。


「無駄話もこれくらいにして、時間がねぇさっさと行くぞ!」


「はい!」


会議室の扉にたどり着いた。扉を開けると8人以上のものの人達がそこに座っていた。


円形状の机の奥でボスみたいな人が


「やっと来たかさっさと、、、何か雰囲気変わったなぁ。」


「隊長こいつは、《《エイション》》じゃなくてもう一人の人格というか、こいつがオリジナルです。」


「ほぉ、二つタルタロスを持っているのか、それとも人格ごとにタルタロスを持っているのか興味深いな。たが、、、」


っと、ブツブツ言っていた。すると、僕くらいの青年が


「タルタロスって言うのは、超人間のことを指す言葉だ。」


さっきの基地の驚きが抜けてないので困惑しながら適当に僕は数回頷いた。


「まっ、とりあえず座りたまえ。」


座ったあとに周りを見渡してみると、時代背景があっていない人が居たり、スナイパーライフルを磨いていたり、挙句の果てには、火、氷、雷で一緒に遊んでいたり(?)と、かなり特殊な人たちだ。


「さて、3ヶ月前に起こしたモンスターズとの全面戦争で我々関東と関西のチームが大打撃を受けた。」


そんなものは、ニュースに報道されていたか。と思いながら隊長ぽい人が話を続けた。


「最も多くの犠牲を伴ったのは、関西チームだ。隊長と副隊長を入れて4人しかいないその為3人程移籍することになった。それで、トヒル、ユーピテル

ウルル宜しく頼む。」


「「「はい」」」


かなり息の揃った返事だった。きっと兄妹達なのだろう。だが今までの経緯が分からない為質問をすることにした。


「そうか君は、知らなかったのか。だったらこれまでの情報を整理しておこう。」


最後まで読んでいただきありがとうございます!


もし「面白かった」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、


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