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第6話 裁判前の準備と東京の現状

 パトカーは街路を縫うように走り続けた。車内にはまだ戦闘の余韻が残っている。警察官の1人がノートパソコンを膝に乗せ、簡潔に説明を始めた。


「これから向かうのは、千代田区にある東京地方裁判所跡に無数に造られた仮設の裁判所だ。到着は午後1時前後になる見込みだが、裁判所は午後1時から2時まで休憩時間だから、その間に食事やトイレを済ませておくといい。あと、処罰の減免には、犯罪行為による減点評価を覆せるだけの復興作業への貢献実績を証明する必要がある。今から君たちがやってきたことを順に書き取るから、正確に話してくれ」


 車内の空気が一瞬引き締まった。俺たち6人は順番に自分たちの行いを説明し、警察官たちは淡々とノートパソコンに記録していった。


 俺は、核攻撃発生時に周囲の人間に避難するように指示し、ある程度の人数の被災を防ぐことができたこと、食料調達の為に自ら外に出たが、核不発弾の残骸による被曝で倒れていたところを救助され、術師化施術を受け義勇兵になったこと、講習でいきなり勝利し高い学習力と戦闘力を証明し国道1号線の再調査に参加することが決まったこと、国道1号線の再調査開始地点へ向かう途中で、溺れかけていた森主を救助したこと、橋の上で通行料金を要求する義勇兵の逮捕に協力したことを説明した。


 刀子は、核攻撃時は物理的な都市破壊を免れた相模原市にある母の自宅にいて、電気機器の故障が電磁パルス攻撃によるものと判断し核攻撃が収まった後、千代田区にある日本術師会関東支部の拠点へ行き、支部から魔法の公開と普及に備えて、講習を担当できる術師人材が増えるまで、講師として講習運営と講師候補生の指導依頼の任務を担当したこと、国道1号線の再調査開始地点へ向かう途中で、溺れかけていた森主を救助したこと、橋の上で通行料金を要求する義勇兵の逮捕に協力したこと、義勇兵の自爆の際に橋にまでも抗を発生させて橋の損傷を防いだことを説明した。また収納ボックスを歩道に捨てた件に関しては、爆発物と間違われないように、蓋を開けたまま置く配慮をしたと説明した。


 森主は、罪を隠さずに話したうえで、軍に入隊した9月10日からの4日間は復興作業に従事していたことを説明した。具体的には、瓦礫の撤去、簡易な通行路の確保、物資運搬の手伝い等だ。脱走中に橋から落ちて溺れそうになっていたところを助けられた後、橋が壊れた原因の調査で、俺と刀子が投げても届かない場所まで球を打ち返して、橋が壊れた原因を特定できたこと、橋の上で通行料金を要求する義勇兵の逮捕に協力したことを述べた。


 拘束されている義勇兵3人は、最初はぎこちなく言葉を濁していたが、警察官の促しでそれぞれが行っていた復興作業を述べた。通行料を取っていたことは認めたが、近隣の瓦礫撤去や夜間の見回り、壊れた簡易フェンスの補修など、地域の安全確保に協力していたことを挙げた。警察官はその供述を慎重に記録した。


 全員の説明が終わると、警察官はノートパソコンの画面に目を落としながら言った。


「これで一通りだ。復興作業の実績は評価対象になる。だが最終判断は裁判所だ。午後1時から午後2時の休憩時間を利用して、食事とトイレを済ませておけ。それと先程の義勇兵の逮捕に関してだが、あれは多人数であげた功績だから評価点はあまり高くないかもしれない。でも極刑はないだろうから安心しろ」


 車内に短い沈黙が流れた。俺はふと、橋の上で見たあの絨毯のことを思い出し、刀子に問いかけた。


「ところで、さっき刀子の母さんが乗ってた絨毯は、どういう仕組みで飛んでるんだ?」


 刀子は少し笑ってから答えた。


「あの絨毯には付喪神が憑いているの。付喪神は長年使われた道具に宿る精霊みたいなもので、あの絨毯は乗っている人の魔力を使って、乗っている人の行きたい方向に動いてくれる。だけど付喪神を憑けるには、本来の用途で百年使う必要があるから、入手は極めて困難なのよ。母さんの絨毯は、曾祖母がイランから日本へ移住する時に故郷の家族から贈られた品で、3世代に亘って手入れし続けてきたものらしいわ」


 その説明を聞いて、車内の誰かが小さく息を吐いた。魔法と古い道具の話は、この世界の現実を改めて感じさせる。


 次に、俺は警察官たちに素朴な疑問をぶつけた。


「さっき、なんで拳銃使わなかった?爆発物出たとき、遠距離から制圧する手段無かったのか?」


 警察官の1人が肩をすくめ、実務的に答えた。


「抗を発動している相手には、通常の銃弾は効かない。抗は体や装備の強度を上げるから、弾丸は弾かれる。だから抗を使う相手を狙撃する場合は、抗を出していない瞬間を狙って弾を当てる必要がある。だが今は電磁パルス攻撃の影響で拳銃用弾薬の生産が止まっている。弾薬は貴重で、多用できる状況じゃないんだ」


 警察官の言葉に、車内の空気が重くなる。弾薬不足と抗の存在が、治安維持の難しさを端的に示していた。


 次に刀子がこんな質問した。


「なんでそのノートパソコンは使えるの?」


 その問いに警察官の1人はこう答えた。


「このノートパソコンは、警察庁本部の核シェルターの奥深くに何年も保管されていた物で、電磁パルスが遮蔽される収納ボックスに入っていたおかげで正常に動いている。それとこのパトカーは核攻撃による物理的な都市破壊が無かった地域を走っていた大型トレーラーの、金属製のコンテナに入っていた電子機器の故障を免れた車を改造したものだ」


「え!てことは貨物港に積み上げられたコンテナの中には、使える電子機器や乗り物もあるってこと?」


「そうだ、それらが臨時政府側の組織に渡れば復興は加速する。だが悪い組織も同様にそれらの入手を企むだろう。君たちが乗っていたバイクも、貨物港のコンテナに入ってた物から部品を取ってきて交換したんだと思うぞ。排気ガスの色も少しおかしいからな」


「バイクの部品があった理由はそういう事だったんだ」


 ここで森主が窓の外を見ながら、さらに核心を突く質問をした。


「東京は、今どうなってるんだ?」


 警察官の1人は視線を前に戻し、慎重に答えた。


「千代田区と新宿区、それに福生市と府中市は核攻撃で大きな被害を受けた。だが核シェルター付きの庁舎や各国大使館付近にいて避難できた人たちは、比較的無事だった。逆に、警報を軽視して避難しなかった人や、シェルターのない地域にいた人たちはお察しの通りだ。さらに電磁パルス攻撃で監視カメラや通信機器が故障しているため、情報伝達に時間がかかる。結果として、市民が災害や犯罪に遭遇したときに、近くに助けてくれる人がいるかどうかが生死を分ける状況になっている。誤報やデマを流す者に騙され、無自覚に業務妨害に加担してしまう市民もいる。警察や軍にも悪事を働く者が僅かにいて、逮捕者も出ている。政府にとって大きな問題は、東京と地方間の情報伝達に数日かかる地域があることと、気象データが入手困難になったために気象予測が難しくなったことだ」


 警察官の説明は冷徹で、しかし現実を隠さないものだった。車窓に映る風景は、説明とともに変わっていく。最初は部分的に壊れたビルや倒れた看板が目立っていたが、次第に崩れた外壁、崩落した高層ビルの骨組み、窓のない廃墟が増えていった。


 森主は息を詰め、低い声で呟いた。


「俺たちの知ってる東京は、もうないのか……」


 その言葉は車内の誰の胸にも刺さった。窓の外を流れる廃墟の列は、かつての喧騒や日常を奪い去っていた。だが同時に、そこには人々が再び足を踏み入れ、道を作り、生活を取り戻そうとする痕跡も見え隠れしている。瓦礫の間に置かれた簡易の掲示板、手作りの案内標識、バケツで水を運ぶ人影、小さな営みが、壊れた都市の表面に新しい線を引き始めていた。


 パトカーはゆっくりと進み、やがて仮設裁判所のある地区へと入っていく。午後1時の休憩時間まで、あとわずかだ。俺たちは互いに顔を見合わせ、これからのことを思い巡らせた。遠いスコットランドへ帰る道はまだ長い。だが今はまず、ここで自分たちの行いを証明し、次の一歩を踏み出す必要があると、誰もが理解していた。

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