表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第5話 初めての戦闘

 3人の警察官は息を整え、俺たちを見渡した。赤い回転灯の光が橋の欄干に反射して、3人の義勇兵の影を長く伸ばしている。そして警察官の1人が言った。


「特殊兵の篠崎、召集兵の宮良、義勇兵のクラーク、ここで通行料を取っている義勇兵の逮捕に協力するなら、裁判所へ君らへの処罰の減免を検討するよう交渉する」


 その言葉に、刀子は一瞬だけ表情を固くしたが、すぐに頷いた。


「協力する。森主、パドリグ、準備はいい?」


「ああ、やるしかねえ」


「分かった。行こう」


 警察官たちは短く指示を出し、俺たちは3方向に分かれて義勇兵たちを包囲した。空気が張り詰め、誰もが次の瞬間を待っていると、先程バイクから降りるよう命令した義勇兵が何かを橋の路面に叩きつけた。その瞬間、濃い霧が立ち上り視界を奪う。白い塊が風に揺れ、橋の上は一瞬で混沌と化した。恐らく昨日の講習で見た濃霧を発生させる球を予め準備していたのだろう。


「霧だわ、気をつけて!」


 俺たちは波で位置と動きを進路を予測して義勇兵の進路を塞ぐ。そして刀と刀による斬り合いが始まる。


 互いに抗を発動しているため、刃は跳ね返り、斬り傷は付かない。だがその硬さが逆に隙を生む。斬り合いの合間に、警察官たちが素早く接近し、先程処罰の減免の検討の交渉を約束した警察官が声を上げた。


「今だ、押さえろ!」


 警察官達は、3人の義勇兵の足元に重い足枷を取り付けた。3人の義勇兵は引きずられていくが、先程球を叩き付けた方の義勇兵は不敵に笑い、胸元をまさぐった。


「抗使えば自爆平気!」


 言い終わるや否や、彼は服の中に隠していた爆弾の点火装置に手をかけた。次の瞬間、強烈な閃光と轟音が橋を揺らした。恐らく自爆だ。


 爆風が吹き荒れ、自爆した義勇兵と刀子を除いた7人が吹き飛ばされる。だが抗を発動していたため、負傷せずに済んだ。パトカーは車内に待機していた警察官の1人が抗を展開して車体を守り、車は大きな損傷を免れた。しかし、俺たちが移動に使っていたバイクは爆風で横倒しになり、エンジンは壊れて動かなくなった。


 自爆した義勇兵と刀子は、抗が強かったからなのか吹き飛ばされずに無傷で立っていた。ところが自爆した義勇兵は足枷が何故か外れていた。恐らく自爆時に発生した爆煙の中で足枷を刀で破壊したのだろう。自爆した義勇兵は素早く刀子に近づき刀子の左足を斬りつけて切断し、逃走を始めた。恐らく刀子は爆風を防御する時に抗を強く出し過ぎて魔力が尽きたのだろう。刀子は悲鳴を上げてその場に崩れ落ちる。血が路面に滴り、刀子は自ら切断面付近を押さえて止血しようとした。


「痛い…でも、血は、止めるから…」


 その瞬間、空を切るような風が通り過ぎ、高速で移動する影が頭上を横切った。続いて、空から小さな球が落ちてきて刀子に当たった。すると刀子の足が斬られた断面から再生していくのが見えた。刀子は驚きの声を上げ、すぐに立ち上がった。


 同時に、逃走を図った義勇兵には何らかの球が当たった瞬間に雷が落ちた。彼は叫び声を上げて失神する。


 霧が晴れると、橋の上に不思議な光景が広がっていた。空中に浮かぶ絨毯に座りながら、絨毯と共にゆっくりと降りてくる1人の女がいた。年齢は60代ほど、白髪交じりの長い髪を風になびかせ、落ち着いた表情でこちらを見下ろしている。刀子は女を見て驚いたように言った。


「母さん!?」


 この女は刀子の母だった。刀子は駆け寄ろうとしたが、まだ完全には回復していない体を支えながら立っている。刀子の母は、刀子の方へ微笑んだ後、俺達に言った。


「さあ皆さん、早く犯人を捕まえなさい」


 周囲の誰もが驚き、言葉を失った。警察官たちも一瞬動きを止める。だが刀子の母は落ち着いており、まるで日常の1コマのように振る舞っている。彼女はゆっくりと橋の上を滑るように移動し、刀子の手を軽く撫でた。


 警察官たちはすぐに義勇兵3人に抗の発動を防ぐための器具を口に取り付け、手錠や足枷等も付ける作業を始めた。器具が噛み合うと、義勇兵たちの抗は瞬時に封じられ、もはや抵抗は無意味になった。警察官Aはノートに事件の詳細を書き記している。


「これで一段落だ。君たち、よくやった」


 刀子の母は警察官たちに向き直り、静かに言った。


「刀子とパドリグと森主からは逃げる意思は感じなかった。大丈夫よ」


 そう言うと、刀子の母は絨毯に戻り、ふわりと空へ舞い上がった後、東の方向へ飛んでいく。刀子は母の背中を見送りながら、まだ震える手で自分の刀を握り締めた。


 残された俺たちは、壊れたバイクと、そして拘束された義勇兵たちを見ていた。警察官は深く息を吐き、俺たちに向き直った。


「裁判所への交渉は約束する。だが、これからも危険は続く。君たちも気をつけて動け。それと1つだけ朗報がある。あのパトカーは10人乗りだから君たちも乗れるぞ。壊れたバイクは付近で待機している者が回収する」


 俺たちはパトカーに乗った。刀子は自分の足を確かめ、笑みを浮かべると小さく言った。


「母さんが来てくれてよかった」


「スコットランド、まだ遠い」


 橋の向こうには、まだ見ぬ道と不確かな未来が続いている。だが今は、仲間と共に進むしかない。そう互いに確かめ合いながら、3人は東京に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ