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第4話 罪を犯す者達

 森主が側車の収納ボックスを見下ろし、眉を寄せたように見えた。落ち着かない様子に俺は気づいた。


「これ、箱があると3人乗りできないんじゃないのか?」


 刀子が即座に答えた。


「そうね。ちょっと中身を移すわ」


 彼女は鍵を外し、収納ボックスの中身を手早く取り出した。工具、非常食、毛布、予備の飲料……必要なものを俺の鞄に詰め替えていく。俺は黙って手伝った。森主は周囲を気にしているように見えた。箱が空になると、刀子は側車からそれを取り外し、蓋を開けたまま歩道の端に置いた。


「これで3人乗りできる。乗って」


「行こう」


 エンジンが低く唸り、俺たちはバイクに跨った。側車の安定は落ちたが、走行には支障がなかった。国道沿いを進み、渡れそうな橋を見つけると、刀子は速度を落とした。橋の向こう側には車の列が続いている。だが、電磁パルス攻撃で多くの車が故障しているはずの状況で、これほどの渋滞は不自然に思えた。


「おかしい。電磁パルス攻撃で多くの車が故障してるなら、交通量は減るはずよ。なんでこんなに渋滞してるのか調べてくる」


 刀子はバイクを降り、ヘルメットを外すと歩道を走り始めた。五分ほどして戻ってきた。少し疲れているように見えたが、声は落ち着いていた。


「検問してる。船橋の駐屯地から脱走した召集兵がいるって通報があって、近くの高校の寮でも盗難があったらしい。ゴルフバッグや競技用自転車が盗まれたって。だから車の中に脱走兵や盗品が紛れてないか調べてるのよ」


 その言葉を聞いた瞬間、森主の顔がこわばったように見えた。彼は俯き、申し訳なさそうに声を出した。


「……それ、俺だ」


「何だって?」


「俺は駐屯地から抜け出した後、高校の寮に忍び込んだんだ。友人の自転車も勝手に持ち出した。ゴルフバッグは……これだけは俺のだ。すまない、家族の安否が心配で、西へ行こうとしてて、つい」


 刀子は厳しい声を出した。


「自首しなさい。ここで見つかったら、後で私たちも脱走兵を匿った罪で処罰されるかもしれない」


 森主は首を振った。


「自首したら後始末が大変なんだ。家族のこと、高校のこと、ゴルフのこと、いろいろあるし、今は無理だ。自首はしない」


「脱走兵を匿ったって言われたら、説明するのも難しいわ」


 森主は声を荒げた。


「お前だって収納ボックスを歩道に放置してるだろ?あれも不法投棄という立派な犯罪だ。人のこと言えないだろ!」


 二人の言い争いは熱を帯び、声が大きくなった。俺は二人の間に立ち、両手を広げて短く言った。


「口喧嘩ストップ。時間無駄。検問いない橋探す」


 その一言で二人は黙り、互いに息を吐いた。刀子は腕を組み、森主は肩をすくめた。俺たちは再びバイクに跨り、検問の列を避ける道を探し始めた。


 しばらく走ると、検問のない小さな橋を見つけた。車の流れはまばらで、渡るのに支障はなかった。慎重に橋を渡り終えようとしたそのとき、前方から義勇兵の男三人が現れた。彼らはバイクの前に立ち塞がり、武装の一部を見せつけるようにしていた。義勇兵の1人が片言の日本語で話しかけてきた。


「ここ、お金必要、バイク、降りて、払え、払うまで、バイクに、戻るな」


 刀子が問い返した。


「私たちも同じ兵士よ。なんで通行料を取るの?」


 すると別の義勇兵が不満げに肩をすくめ、事情を片言で説明し始めた。


「銀行、引き出せない。財布、現金、少ない。生活、金、必要。入隊一時金、もらえると聞いて、義勇兵、なった。でも給料、月払いと知る前に、一時金、ほとんど使ってしまった。今、まともに生活、できるか、不安。だから通行料、取ってる」


 刀子は冷静に言った。


「軍から食料は提供されているから飢える心配はないわ」


 義勇兵たちは首を振った。そしてまだ話していない義勇兵が、片言で吐き捨てるように言った。


「働く、食う、寝る、それだけ。嫌だ!」


 その言葉とともに、三人の義勇兵は帯刀していた刀を抜いた。刃が陽を受けて冷たく光った。俺は腰の刀を抜いた。刀子も反射的に自身の刀に手をかけた。森主は既に刀を抜いて身構えていた。


 緊張が橋の上に張り詰めた。その瞬間、遠くからサイレンの音が近づいてきた。東京方面からパトカーが一台、赤い光を回しながら突っ込んでくる。大きめのSUVタイプの車だった。止まると三人の警察官が飛び出してきた。息を切らしながら状況を把握すると、驚きと怒りが混ざったような声を上げた。


「橋の上で通行料を取っている義勇兵がいると聞いてここに来たが本当だったとはな。ならば、逮捕する!」


 義勇兵たちは互いに視線を交わし、刀を握る手に力を込めた。刀子は短く息を吐き、周囲の空気が一気に変わるのを俺は感じた。俺は刀を構えたまま、次の瞬間に何が起きても対応できるよう身を固めた。警察官たちも刀を抜いた。

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