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第11話 摘発に対する報復

 爆発音の余韻がまだ耳に残る中、俺は急いで服を着て寝室を飛び出した。廊下には既に数人の兵士が集まり始めていて、その中に夜勤の正規兵の姿もあった。正規兵の1人が俺を見るなり、短く言った。


「報告はあとだ。外に出るぞ」


 その声に、俺は頷き、他の者たちと共に兵舎の外へと駆け出した。


 外に出ると、まだ薄暗い空の下、駐屯地の正門付近に異様な光景が広がっていた。二十人ほどの男たちが自転車にまたがり、手にはバットや鉄パイプのような鈍器を持っていた。彼らはバイク用ヘルメットを被り、E10’Sの字が刺繡されたジャケットを着ている。夜勤の正規兵の一人が、歯を食いしばるようにして言った。


「あいつら、不良グループの江戸ティーンズだ!」


 そのとき、江戸ティーンズの構成員1人が、こちらに向かって叫んだ。


「よくも俺らのカジノを潰してくれたな!俺らが来た理由はカジノを潰した報復だ!でも人を殺すのは流石にまずいから、武器は銃や刃物じゃなくて鈍器程度にしておいたから安心しろ!今からひと暴れするぞ!」


 その言葉に、周囲の兵士たちが一斉に構えを取った。俺も抗を発動し刀を手に取る。刀子、森主、起輪二もすぐに駆けつけ、各々の武器を構えていた。だが、日勤の兵士たちは寝起きで動きが鈍く、夜勤の正規兵たちも疲労の色が濃い。一方、構成員たちは、自転車に乗ったまま突進し、鈍器を振り回してきた。


 俺たちは押され始めた。自転車の機動力に翻弄され、攻撃をかわすのが精一杯だった。だが、構成員たちもその戦法に慣れていないのか、動きに無駄が多く、次第にこちらも反撃の糸口を掴み始めた。


 互角の展開に変わったそのとき、起輪二が叫んだ。


「奴らの自転車の前輪に横から刀を入れろ!」


 その言葉に従い、俺は1人の男が乗る自転車の前輪に刀をいれた。後輪のスポークの間に入った刀がフォークに引っ掛かり、男はバランスを崩して転倒した。他の兵士たちも同じように動き、次々に自転車が倒れ、構成員たちは地面に転がった。兵士たちが抗を封じる器具を構成員たちの口に挟みこむ作業を始めるために、構成員たちのヘルメットを外すと、数人の構成員が、徴兵された翌日に脱走した兵士だと判明した。兵士たちは驚くが、正規兵の1人が、


「敵があと1人残っているぞ!」


 と言い、それを聞いた俺は、一昨日の講習で使った短距離を瞬間移動する効果を発生させる球を使って接近したが、拘束しようとした瞬間、最後に残った構成員は掌から球を放ち、地面に叩きつけた。次の瞬間、強烈な風が巻き起こり、俺たちは空中へと巻き上げられた。


「竜巻か……!」


 俺は空中で体勢を整え、抗を発動して体を固めた。十五秒ほど宙を舞った後、地面に向かって落下する。だが、抗のおかげで衝撃は最小限に抑えられ、俺は無傷で着地した。


 目の前には、さっきの構成員が倒れていた。手には手錠、足には足枷、口には抗を封じる器具が取り付けられている。どうやら誰かが彼を制圧したらしい。


 そのすぐそばに、空中に浮かぶサーフボードに乗った老人がいた。七十代くらいに見える男で、白髪を風になびかせながら、俺たちを見下ろしていた。


 刀子、森主、起輪二が次々に着地し、その男を見て反応した。


「あなたは……十年前、母さんのアシスタントしてた成田さんですよね?」


 と刀子が言い、


「成田さん、お久しぶりです」


 と森主が続け、


「二度と会いたくないくそじじいを見るとは、ついてねえな」


 と起輪二が吐き捨てた。


 成田と呼ばれた男は、眉をひそめて言った。


「三人同時に話してきたら答えられん。ひとりずつ話してくれ。あと時間ないから早く済ませるぞ」


 まず、成田は刀子に向かって言った。


「親は元気にしてるか?」


「元気にしてます」


 と刀子は短く答えた。


 次に成田は森主に向き直った。


「二年前、私が野球部監督だというのに、君が他の部員から金品を脅し取られていたのを見て見ぬふりをして済まなかった」


 森主は少し驚いたように見えたが、すぐに落ち着いた声で言った。


「もう終わったことだから気にしないでください。野球やめて暇潰し感覚でゴルフ始めたら、上手くいってプロ契約目前まで来たので、野球に未練はないです」


 成田は頷き、次に起輪二に向き直った。


「二年前、私が野球部の問題を見て見ぬふりをしたせいで、森主が取られたものを取り返すために、君がひとりで交渉に行って、ミゲルと血を吐くまで殴り合って、裁判まですることになって、怪我の治療と高野連からの処分と教育委員会の処分で、野球が出来なくなって、森主と転校までさせられて、申し訳ない」


 起輪二は睨みつけながらも、低く言った。


「お前のことは許せねえけど、終わったことだ。傷を治す球使ったら肘と肩の違和感なくなったから、学校が再開したら野球をやろうと思ってる。年齢的に甲子園には行けないけど、社会人のクラブチームで都市対抗野球に出て活躍出来ればプロになれる可能性はあるから」


 そのとき、倒れていた構成員が口を開いた。


「森主、起輪二、二年前はあんなことしてごめん。もう俺はおとなしく逮捕されることも受け入れる」


 森主はその顔を見て、少しだけ目を細めて言った。


「すまん。成田さんのサーフボードが目立ちすぎてお前がミゲルだと今気づいた。これからは真面目に生きろよ」


 起輪二は腕を組んだまま、冷たく言った。


「お前に言うことはもうない。俺が言いたいことは森主が既に言ってるから」


 そのとき、正規兵の一人がミゲルに近づき、


「お前は脱走兵の三木(みき) ミゲルだな!」


 と言って、パトカーが来るまで他の構成員たちと同様にミゲルも駐屯地の敷地内に連れ込もうとするが、成田は、


「兵士さん少しだけ待ってくれ。一つだけミゲルと話すことがある」


 と言った後、成田はミゲルに向かって言った。


「ミゲル、江戸ティーンズは鋭働會(えいどうかい)の傘下か?」


 ミゲルは驚いたように目を見開いた。


「な、なんでわかるんだ!?」


 成田は静かに答えた。


「私は昔、裏の人間だったからな。裏の情報には詳しいんだ。悪いが、今急いでるから話はここまでだ」


 そう言うと、成田はサーフボードに乗り、ふわりと空へと舞い上がり、西の方角へ飛んでいった。


 この会話を聞いた正規兵は、呆れたような口調で、


「おいおい、これから反社相手に戦う可能性もあるのかよ。政府は軍をなんでも屋としか見てないのか」


 と言った。


 俺は故郷の状況がどうなっているのかさらに心配になった。核攻撃前は女性が夜間に街を歩いても安全といわれてた日本が、ここまで変わってしまったからだ。イギリスが核攻撃を受けたとしたら、今の日本より酷い状況になっているだろうし、内戦状態の地域や治安が悪い国が核攻撃を受けたとしたら、もっと酷い状況だろうし、スコットランドに帰るには危険な地域を通行する可能性があるかもしれないとも俺は思った。だが今は与えられた仕事をこなして、早期に帰還可能な状態になることを祈るしかなかった。

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