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第10話 試作品

 車の荷台から兵士たちが箱を運び込む音が、兵舎の床に規則正しく響いた。箱が並ぶと、兵士の一人が前に出て声を張った。


「これから開発段階の道具の試作品を支給する」


 その言葉に、皆の視線が一斉に集まるのが分かった。


 最初に取り出されたのは、刀身の側面に金色の紋様が描かれた刀だった。兵士が短い詠唱をして掌から球を出し、その球を刀身の側面に当てると、紋様が発光し、刀身が発熱した。実演した兵士は説明した。


「これは球付刀(きゅうふとう)だ。球の効果を一時的に保持する力を刀身の紋様が持ち、紋様の範囲内で球の効果を維持できる。今は発熱の効果を保持している」


 周囲の空気が一瞬だけ熱を帯びたように感じた。


 次に箱から出てきたのは、腕時計用ベルトに小さな黒みがかった円盤が取り付けられた腕輪だった。兵士が腕に装着すると、円盤がゆっくりと色を変えた。実演した兵士は、


「これは体内残存魔力測定器だ。装着者の残存魔力量に応じて円盤が青→緑→黄→赤→黒と変色し、魔力が尽きれば黒になる」色の変化を見て、隊員たちの顔に安堵と不安が交互に走るのが俺の視界に入った。


 兵舎内から質問が飛ぶ。起輪二が金色の紋様の素材を尋ねると、実演した兵士は、


「オリハルコンだ。茨城県内の神社に製法が記された書物があった。オリハルコンは銅2亜鉛1の比率で混ぜて作る」


 というと、起輪二が、


「五円硬貨とほぼ同じ素材だ」


 と声を上げ、皆が驚きと半信半疑の表情を浮かべた。俺はその場で、伝承と現実が交差している感覚を覚えた。伝説の名が、現実の素材比に落とし込まれていることが、妙に生々しかった。


 森主が続けて質問した。


「オリハルコンの特性を利用して蒸気機関は動かせますか?」


 実演した兵士はこう回答した。


「理論上は可能だ。だがオリハルコンは長時間高温に晒されると、亜鉛が溶け出して球の効果を保持する力は失われる。だから政府はオリハルコンと同様に球の効果を一時的に保持する力を持ちつつ、長時間高温に晒されても変質しない素材、スーパーオリハルコンの開発をいくつかの企業に依頼している。成功すれば列車や船や発電所が動く可能性がある」


 その言葉に、俺は胸の奥で小さな期待と同時に現実的な不安を感じた。技術的な解決が進めば移動と電力の問題は大きく変わるが、開発には時間と資源が必要だ。


 次にトゥラ・ザウ・ミンが体内残存魔力測定器の円盤素材を尋ねると、実演した兵士は、


「黒曜石だ。黒曜石は術師が触れると残存魔力に応じた色の光を出す性質があるが、黒曜石は天然ガラスの一種で、ベルトを通す穴をあける加工が難しいため、黒曜石と同様の残存魔力に応じた色の光を出す性質を持ちつつ、加工のしやすさと耐久性を兼ね備えた代替素材や、残存魔力測定機能を組み込んだ腕時計の開発もいくつかの企業に依頼している」


 と答えた。俺は道具の実用化に向けた国家的な動きの大きさを改めて実感した。道具が普及すれば、現場での安全管理や魔力の運用が格段に変わるだろう。


 ここで実演した兵士がふと顔を曇らせ、


「言い忘れていたことがある。魔剤の材料の一部は栽培適地や輸送コストの問題で調達が難しいため、安価で入手しやすい代替材料でも魔剤を作れる方法の開発をいくつかの企業に依頼している。魔剤の供給が安定するまでは、しっかり睡眠を取って自然回復を心掛けるようにしてほしい」


 と言った。俺はその言葉を聞いて、魔剤が万能の解決策ではなく、補助的な存在であることを再確認した。人間の体と魔力の回復は、結局のところ基本的な生活の安定に依存するのだ。


 実演した兵士はさらに言った。


「もう一つ言うことがある。臨時政府は新素材・新技術開発に備えて、初動対応でスパイ防止法を制定してある。新素材・新技術開発の情報は国家機密や企業秘密になるだろうから、それらの情報を調べようとしたり、外に持ち出すようなことは絶対にするなよ。ものによっては死刑の可能性もある」


 その発言に対し俺はすかさず言った。


「さっきの情報は口にして大丈夫なのか?」


 すると実演した兵士は言った。


「あれは問題にならないレベルの僅かな情報だ。それと復興が完了しても核攻撃以前の世界には戻らない。なぜなら現代科学と魔法を融合した戦術も各国で編み出される可能性が高いからだ。これから先、国家にしろ企業にしろ、あらゆる分野で主導権を取るには早期の復興を達成するしかない。これは国家と企業と市民達を総動員した復興、という名の戦いでもある」


 その言葉を聞くと、言葉が喉に詰まった。重さに押し潰されそうで、何も言えなかった。周囲の兵士たちも、顔を伏せたり視線を落としたりして、同じように言葉を失っているように見えた。


 最後に、稚内や済州島の件を報告した兵士が告げた。


「深夜0時から品川区の闇カジノ摘発に警察が入る。夜勤の正規兵も参加することが決まった。夜勤の正規兵は夜の任務に備えよ」


 その言葉に、夜勤の正規兵たちの表情が引き締まる。俺は正規兵たちの無事を願いながら、任務の重さを胸に刻んだ。


 その夜、俺は自分の寝床に戻り、今日見た道具や聞いた話を反芻しながら眠りについた。球付刀、腕輪の色の変化、オリハルコンと黒曜石の話――どれも現実の復興に直結する要素だと感じたからだ。だが眠りは浅く、頭の片隅で常に警戒が続いていた。


 9月15日日曜日早朝、近くで大きな爆発音がして目が覚めた。寝室の窓から外を見ると、駐屯地の正門付近から煙が立ち上っているのが見えた。心臓が跳ね、体が瞬時に緊張した。夜勤に出た正規兵たちの任務がどうなったのか、爆発の原因は何か、頭の中で問いが連鎖する。俺は急いで服を着込み、外へ出る準備を始めた。任務に向かった仲間たちの無事を祈りながら、次に何をすべきかを考え始めていた。

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