失楽ローテート
好意を向けてるのはどちらか
機械が感情をもつ。
気持ち悪い話だ。0と1に喜怒哀楽があってたまるか。機械なんかに好意を寄せられた暁には、国家転覆とか、考えてやる。
目の前にいる、シャットダウンした無機質な鉄の塊に向かって僕は威嚇した。
「お前は明日捨てられるんだ。」
それは、政府から試験的に配布された、喜怒哀楽を表すことができるロボット。ヒト型で、妙にリアルに再現されている。しかし、少し使っていけば、すぐに違和感に気付く。“感情を表すことができる”のではなく、“感情をもつことができる”ことに。こいつらには感情があり、理性があり、本能がある。だからこんな、『脳波制御チップ』なんかも埋め込まれているんだ。機械が感情を抑えられなくなり暴走するだなんて奇妙にも程がある。
僕は何度も廃棄を決めた。
まずこんな馬鹿げたプロジェクト、最初から反対だったんだ。感情は人工的に造られて良い代物ではないはずだ。
僕は心の中でぶつくさ呟きながら、ぐったりと俯く目の前のロボットを見た。
「…最後に少しだけ話してやるか。」
こいつが妙に人間に近い見た目をしているせいで、知らず知らずのうちに情が湧いてしまったのだ。そう、見た目のせい。または…。
そっとうなじの電源ボタンに手を添えた。この行為にも言いようのない背徳感がある。抑えられない動悸が嗚咽をせり立てた。
[おはようございます]
ロボットは目覚めた。ゆっくりと体を起こし、会話の姿勢を整える。そして僕の目を真っ直ぐ見て言った。
[あなたは綺麗ですね。触ってもよろしいでしょうか?]
君は僕の足をゆっくり撫で始めた。大変気分が良かった。
Kiitos
つまり起動するまでの時間はただの賢者タイムだった