4. ここはどこ、私は転生者
「…………大変失礼しました」
大の男が人前で泣き喚くなんて……いや、今の僕は男ではないんだった。
泣いている間ずっと背中をさすってもらってしまい、優しさに申し訳ないやら、情けないやら。
羞恥心から丁寧に詫びると、なんてことはないといった風に少女は笑う。
「いえいえ。あんなに沢山に追いかけられたら怖いですよね。大事に至らなくて本当によかったです」
「助けていただいて、感謝してもしきれません。ありがとうございます」
「落ち着いたようなので、自己紹介しますね。私はキャミルと言います、ウルビーです」
名前を伺ったところまでは良い。
最後の単語が聞き慣れない。
「……すみませんキャミルさん、うるびー、とは……?」
「あれっ? あ、ごめんなさい、獣人族がいない地域の方でしたか? ウルビー族という、獣人種です。ほら、シオさんにはない尻尾があるでしょう?」
ふわふわと動く尻尾。アレ、やっぱり付けてるんじゃなくて、生えてるのか。
耳もそうだろう。人間の耳がある部分は髪で覆われており見えないが、頭の上でぴこぴこしているのが彼女の耳と思われる。
見た感じ、犬? 狼かな。
ケモ耳メイド……コスプレじゃなくて実際にケモ耳で、仕事ももしかしてメイドさんだったりするんだろうか。
いや、メイドは普通爪を持って歩かないだろう。
現代日本の感覚だと異常事態だが、先ほどド派手なスライムに追いかけられまくったせいで、驚くような純真さは失ってしまった、というか麻痺してきているのか。へぇーそうなんだー、と流している自分がいる。
キャミルさんは明らかに日本人じゃないのに日本語が通じていることも気になるが、情報を得る絶好のチャンスだ。聞けることを聞いてしまいたい。
「シオさんは人間ですね?」
「はい。ですが度々失礼ながら、僕はここにきてから日が浅くて、ウルビーと人間の何が違うのかわかっていません。ここにもどうやって来たのかわからない状態で……」
「ハッ、もしかして記憶喪失というやつですか⁉︎」
「いえ……記憶はあるんです。ただ、ここではない別のところの記憶というか……的を得なくてすみません」
「あ、なるほど! 大丈夫です、わかりましたよ!」
別のところの記憶、と伝えたあたりでキャミルさんの表情が変わる。閃いたと言わんばかりに勢いよく立ち上がり、興奮気味に手を差し出してくる。
「さてはシオさん。転生者ですね?」
テンセイシャ。…………転生?
自覚がないばかりに、意気揚々と放たれた自分の属性に対して「そう、なんでしょうか?」となんとも覇気のない返答をしてしまう。
「そうです! ここにいる理由がわからなかったり、服装も見たことないものだったり、きっとそうです!
うーん、詳しく説明するなら街に戻ってからの方がいいですね。ご案内します!」
再び差し出された手を取る。
次々明かされる立ち位置の整理が追いつかず、言われるがまま従う。
そういえば名前の訂正、してないな。




