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その後2

城に帰り。

私はカイルを呼び出した。


「ねえカイル。一つ聞きたいのだけど。……もしかして貴方がわたくしを助けてくれたのは、竜石の件で負い目があったからだったのかしら?」

「え。なんで?」


うん。まっっったく気にしてなさそうなのがその顔でわかった。

なんだよ。ちょっとホッとしてるな私。


「誰のことも関係なく僕は君を助けたいと思ってるよ」

「そう」

「嵐の日に1人で歌ったり踊ったりしたり夜中に突然起き出してイーラーとダリアが実は子供の頃に名前を知らずに出会っていた物語とかを書き始めるおかしな君が好きだから」

「! なんで知ってますの⁉ というか読みましたの⁉」

「ごめん、ちょっとだけ。あと君のらいぶ? は他の使用人たちも気づいてたよ。皆知らないふりをしてたけど」

「‼」


道理で! 部屋に入ってくるタイミングが絶妙だと思ってたわ!

むちゃくちゃ恥ずかしいけど今はそれどころじゃない。


「あのですねカイル。貴方に大事な話があります」

「うん」

「わたくしは貴方を放っておけないと思っています。これが愛情なのかはわかりません。貴方が傷つくのを見たくない、ましてやわたくしの手でそう仕向けるなんてとんでもない、という気持ちです」

「うん? ありがとう?」

「貴方の記憶を消してしまえばわたくしはずっと罪悪感に苛まされていくような気がします。それはわたくしの精神の健康上よくないことだと思いますのね」

「……うん」

「ですからわたくしの健康の為にも、ここはもう腹をくくって貴方の面倒をみていくことが一番いい方法ではないかと思いますの」


自分で話しながらモヤっとした。

ごまかしてるな。駄目だ、ここは勇気を出せ私。


「いいえ。訂正します。カイル! わたくしは貴方がくれるほどの愛を貴方に持っていませんが、貴方に愛されたいと思っていますの! そういうずるいわたくしを貴方は受け入れてくれるかしら⁉」


ぎゅっとドレスのスカートを握って思わずうつむいてしまう。

その手が、カイルの手に包まれた。

顔を上げればそこにカイルの満面の笑顔があった。


「よくわからないけど! エミリアと一緒にいられるなら僕はなんでもいいよ!」


眩しい。人の笑顔がほんとに光って見えるなんて知らなかったよ。

ありがたくって涙が出そうだ。

そういう気持ちをごまかす為に、私はカイルの手をそっと握り返した。


「わたくしより好きな人が出来たらすぐ言って下さいね?」

「エミリアも、僕をたくさん好きになったらちゃんと伝えて。それ以外は言わなくていいよ!」


そういう訳で、私はカイルと暮らすことになったのだ。



数か月後、王妃エミリアは心労と頑張りがたたってほとんど表に出ることなく亡くなった、ということにしてもらった。


エミリアの私財は福祉と神殿に半分ずつ寄付。

あと、そこから少し他にも出した。


カイルの屋敷なのだけど。あれは結局、カイルの物ではなかった。

相続問題で揉めてしばらく放置されてた家を全く関係ない第三者がカイルに売りつけたらしい。つまり詐欺にあったというわけだ。

怒りのカイルの魔法で犯人はあっさり捕まったけど、金銭はとっくにどこかへ消え失せていた。

カイルは文字通りの一文無しになったのである。

私は本来の持ち主たちに売り払ってしまった物と駄目にしてしまった物の弁償代を10倍にして返しておいた。


管理人の顔色を頭に浮かべつつ「これくらいならお金持ちとは言われないかな?」というぎりぎりの分を手元に残して、髪色を変えて特殊眼鏡をかけて、神殿近くに家を借りてカイルと一緒に暮らしていくことにした。


「神殿に来られるのではなかったのですか⁉」


驚きのヘレナ様には謝っておく。

神殿での暮らしが管理人にどう判定されるかは微妙だからなー。


自力で獲得する分には奪われない。

ということで、これまで通りの翻訳と神殿でするつもりだった古代文字解読の仕事(神殿の知り合いは私の生存を知ってる)、あとはカイルの魔法で稼ぐことを思いついた。


カイルの力は一歩間違えれば悪用し放題なのでなるべく平和なものにしたかった。

題して逆デリバリー。お客を地方の名店に転移魔法で連れて行き、連れて帰る。名店リストは旅の多い神子様たちに協力してもらったけど、お客様の指定があればリストにない店に行ってもいい。

結構食道楽の多い我が国の貴族や裕福な平民の人たちが利用してくれるようになってありがたい。

時間や身体の問題で遠くへ行きたいけど行けない人の足になるような仕事もたまに来る。活用法はいくらでもあるだろう。

色々な許可は王妃エミリアが存命な内に取っておいたし。

そこそこ稼げるので自分たちのペースで仕事をして、たまにはヘレナ様とイーラー教愛を語り合う!

これが重要!



「そういえば、今日は久しぶりにセブリエと会ったよ」


セブリエとは私の元外国語の教師で今は翻訳業の雇用主だ。

私は直接顔を合わせられないので、これまで通りカイルがお使いをしてくれてる。


「しばらく隣国に出かけてたんだって。あっちはなんか今、国中あげて大騒ぎらしい」

「なにそれ。物騒な話じゃないよね?」

「うん。なんかね、王子様の発案で、全ての国民に文字と計算を教えるんだって言って、国中にそういう施設を作ろうとしているらしいよ」

「へえ……」

「その施設をなんでかガッコーって呼ぶらしいんだけど。どこの国の言葉にも当てはまらない響きだから正確に訳しづらいってセブリエがぼやいてた」


ああ、それは。前世の私の故郷の言葉だ。

私が巻き込まれることになった、この世界を変える為に連れて来られたあのお兄さんが蒔いた種が、ようやく芽吹き始めたということなのかもしれない。

隣国で、頑張って生きてるんだな。

顔も知らぬその人を思ってなんだか私も励まされる。

うん。私は私で。こっちで目立たぬよう生きていこう。

このやっかいな連れと一緒にね。



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