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作戦会議

まずは秘密を守る為に新たに結界を張り直してこのまま屋敷を拠点にする。


そして今後どうしたいかの整理。

私の願いはルイス様たちを助けること、陛下の企みを砕くこと、後はできれば陛下の性質を広めてこれからの被害者を少しでも減らすことだ。

それらを叶えるにはどうすればいいのか。


とりあえずカイルに勝手知ったる王城に忍び込んでもらって情報を集めてきてもらった。


「ルイスとロザリンデは自分たちの潔白と君から聞いた王の苛めの話を裁判で訴えてたらしい。あまり信用されてなかったようだけどね。証拠もないし」


そうだろう。私の妄言と思わないでいてくれただけありがたい話なのだ。

そしてあの気高く美しいロザリンデ様が裁判の犯人側なんていう見世物のような状態にされてしまっていることに心が痛む。おいたわしい。


「使用人たちは主人の無実を訴える人間ととにかく自分は何も知らないの一点張りの人間に分かれたって。でも君を離れに押し込めて妻の務めを与えなかったのは動かしがたい事実だからね。それは全員が証言してた。だから、ルイスたちへの心証はよくないようだよ」

「ケント様はどうされてます?」

「小さすぎて咎める対象じゃないらしい。スザナ・スターに預けられていたよ」


叔母様なら安心だ。少しホッとした。


「公爵と夫人と次男は部屋を別々にして城内に留め置かれてるよ。公爵と次男は客室で、夫人はエミリア、君の部屋だった場所にいる」

「⁉ 何故?」

「もともとあそこはスザナ姫の部屋だったんだって」


だからってそこを選ぶかな?

なんだかモヤっとする。

ヘレナ様も眉を寄せた。


「何も息子が殺したと言われている相手の部屋に閉じ込めなくてもよいではないですか。夫人も心安らかでないでしょうに」

「陛下と公爵夫人の仲は悪かったのか?」

「いえ、わたくしが聞いた限りでは特に……」


叔母様はとにかく人が好い方で、どんな人にも優しく接する天使のような人だ。

誰かと険悪になるなどあまり想像できない。


「これではまるで嫌がらせですわね。本当に陛下の性格のお悪いこと」


ヘレナ様はぷりぷり怒ってる。

なんだかなあ、と思いながら、私たちは嫌な気分のまま話を進める。


色々と意見を出し合った結果、ルイス様たちの救出に最も重要なのはエミリアの本人証明だということになった。


この計画を立てたのが陛下であるなら、陛下が私を認めるとは思えない。

となると他の証人を用意しなきゃならなくなる。


私、知り合い少ないんですよ。王家の人たちは陛下の意向に従うだろうし、数少ない顔見知りの貴族だってそれは同じかもしれない。

つまり陛下と同じくらい発言力のある人に私が私だと証明してもらわなければ。

最悪なことに、唯一それが出来そうなスザナ叔母様では偽証と言われる可能性がある。


「そういえば、王族の裁判の結審には見届け人として大神官様が来られる筈ですわ」

「!」


そうだった。

大神官様はむちゃくちゃ知り合いだ。

私が神殿に寄進をする時に対応してくれるのが神殿の長である大神官様である。

と言っても手続きは他の人任せでのんびり世間話をするような、茶飲み友達のような間柄なんだけど。

いつも穏やかでちょっとひょうきんな優しいお爺ちゃんだ。

しかも発言力もある!

証人としてこれ以上ない。


「……ところで大神官様はわたくしの葬儀には関わっていませんでしたの?」

「がっつりやっていた筈ですわ。ご遺体も見たのでしょうが、そろそろお目も悪くなっているのかもしれませんね……」


いいお歳だからなあ。

知り合いが突然そんなことになって動揺されていた可能性もある。驚かせてしまってごめんなさい。


ということで行動するのは結審の日となった。

貴族以上の裁判は城の裁判の間で行われているので、当日そこに乗り込むことにする。


「カイル。貴方裁判で自分の知っている事実を証言できまして?」

「ごめんエミリア。影の職務で知った話は公の場で話せないんだ。そういう契約魔法を交わしてる。元上司の許可があればいいんだけどね」


なんと。それが駄目だと首謀者は陛下だと追い詰めるのは難しいだろう。

その辺りはまた後で何かを考えることにしよう。


「後は外で待ち構えている影をどうするかですわね」

「魔法を解放してくれれば僕が殲滅しておくけど?」

「殲滅はやめて」


ここでクロード様が手を挙げる。


「こっちが囮になって影たちを引き連れていく。殿下たちはその間に城に向かってくれ」

「こちらが別行動をすればあちらも二手に分かれるだけでは?」


クロード様がカイルを見た。


「お前。殿下の人形を作ったと言ったな。自分用のもある筈だ。それを出せ」

「クロード様⁉ 何をおっしゃってますの!」


思わず立ち上がってしまった。


「こういう輩は愛着ある物を手元にも残しておきたがるもんだ」


こういう輩、でヘレナ様に目をやるのはやめて。そしてそういうオタク的心理は私にも非常に親和性がありますけれども、でも!


取ってくる、と言ってカイルが部屋を出た。


ひい! あるんですの!


カイルが渋々出してきた私人形は気味が悪いくらい本人にそっくりだった。

そのドレス、見覚えがあるんだけどどこでちょろまかしてきたんだ。

そしてこれなら直接抱き上げたとしたって偽物だとは気づかれないわ。大神官様、なんか馬鹿にしたみたいになってごめんなさい。


「悪くないな。これを連れて馬車にでも乗り込めば全員釣れるだろう」

「ではこの男に変装する者も必要ですね」


ヘレナ様は神殿の人たちからカイルと背格好の似た人を選別してる。


微妙な気持ちでヘレナ様たちのやりとりを見ていた私に、お医者様が不敬を謝ってから声をかけてきた。


「スター騎士団長をお助けした後、殿下はいかがするおつもりですか」

「そうですわね。わが国では例え国王陛下と言えどもイーラー神からの預かりものである国民を正当な理由もなく害することは許されておりません。残念ですが陛下にはご退位頂いて、王太子様が即位してルイス様たちが補佐をするか、ルイス様が王になってしまうかは皆で相談するところでしょう」


私としては王太子様が即位のルートが面倒がなくていいなあ。

などと考えているとお医者さまが首を振った。


「いえ、そうではなく。殿下ご自身の身の振り方について伺っております」


あら。そう言えば、その後のことは何も考えていなかった。

どちらにしてもルイス様はお忙しくなるなあ。私も手助けできることはした方がいいだろうけど命は狙われっぱなしだから外部とは接触したくないな。

カイルをきちんと護衛として雇って公爵家に籠っていれば安全なのかしら?


そんな私の視線を追ったお医者さまは少し目を細めた。


「もし今後のことにあの者の能力を頼りにされているならそれは不可能かもしれません」


なんで? 意味がわからないので聞き返した。すると。


「この騒動で陛下が罪を逃れようとした場合。陛下の罪を肩代わりさせる人物が必要となります。そうなれば、あの者の単独犯行とするのが最も説得力があり、簡単でしょう」


兵士と背比べをさせられているカイルを見る。


「国王陛下が公爵家に再び兵をやってあの者を捕らえようとするでしょう。そして王家の影の助言を受け入れて神殿にも協力要請がくるかもしれない。……国王陛下にはクロード様の存在は伝わっております」


一瞬さあっと血の気が引いた。

例えそんなことになったとしても普通の兵ならカイルは逃げ切れる。と私は思っている。でもクロード様に出てこられてしまってはどうしようもないじゃないか。

私がカイルの無実を訴えたとしてもきっと聞き入れられないだろう。

そうなればカイルは捕まって死罪だ。

そして私は王家の影に一生怯えて暮らすか、早々に命を奪われてしまうかもしれない。


どうしたらいいんだ。


「やはり陛下の所業を暴くことが必要ですわね……」

「何か証明するものがあればよいのですが……」


うーん。

必死に考えを巡らせて、それでも他にいい手が思い浮かばず、ついに私は諦めて肩を落とした。


「だったら仕方ありませんわ。ルイス様たちを救出した後はカイルには姿をくらましてもらいましょう」

「あれが従いますかな?」

「わたくしがたまに面会日を作ると言って納得させます」


それくらいしかない気がする。

カイルを説得する方法について他にないかと考えていると、お医者さまの視線がこちらに注がれ続けているのに気が付いた。


「……何か?」

「いや。ご無礼致しました。エミリア殿下のお心があの者と適切な距離にあられるようで安心致しました」

「どういう意味かしら」

「殿下があの者を連れて出奔する、などと言い出されなくて大変安堵致しました、という意味でございます。このような特殊な状況を過ごされた後はそういう心の防御作用もございますからな」

「まあ! ありえませんわそんなこと。あの者はわたくしの好みではありませんし。わたくしが心ときめくのはイーラー神のようなイケオジだけですわ」

「いけ……おじ?」


お医者さまを煙に巻いて話を断ち切る。


……心配してもらえるのはありがたいけど。

今はあんまり踏み込まれたくない、ような気がする。

自分でもよくわからない。


そうやってなんだか落ち着かない気持ちを抱えたまま、私たちは決行の日を迎えたのである。


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