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投獄

それは私が攫われてから半月後のことだったと言う。


ルイス様たちスター公爵家別邸の人間全員が、王の命令によって牢に入れられた。

罪状は、王家の姫であるエミリアを虐待死させた件。


エミリアを正式な妻にしたにも関わらず、離れに追いやり妻の役目を取り上げ、そればかりか前妻と共に屋敷中の者でエミリアを苛め倒して死なせてしまった。

心ある者の密告によって状況を知った王は急ぎ王家の兵を公爵家に向かわせたが時すでに遅く。

屋敷から兵士が連れて帰ったというエミリアのむごい遺体を見て王はその場で泣き崩れたそうだ。


……というのが王家から出た正式な情報だった。

そうして私の葬式が国を挙げて大々的に行われたというのである。


「わたくし、死んでおりません!」

「そうです。私は姫様の訃報を聞いて急遽王都に引き返し、そこで夫に記憶を戻してもらいました。姫様の状況も公爵家の話も何もかも違っておかしすぎました。ですからこちらに来る件も神殿の信用できる者たちだけで動いております。でも……最悪、姫様が攫われてお命を奪われたのではと心配しましたから……本当に無事でよかった……!」

「ヘレナ様……!」


よくぞ私の無事を信じてくれました! ありがたすぎてまたうるっときてしまう。

でもそれどころではない。


「それでルイス様たちは今はどう?」

「貴族牢に入れられて裁判が行われております。このままではスター騎士団長ご一家は死罪確定です」

「! では早くわたくしが生きていることを皆に知らせなければ」

「エミリア・スターは公的にはもう死んだ。今更君が出たって偽物扱いされるだけだよ」


おっと。滅多に見ない冷めた表情でカイルが冷たく言い切った。

そこでふと引っかかる。


「貴方このこと知ってましたの?」


聞かれたカイルはぶんぶんと首を横に振った。


「公爵家の人間をどうこうとかは知らない。ただ君を死んだことにする為には遺体は必要だって言われたから君の人形は魔法で作ったよ。かわいく!」

「かわいく」

「あれを見てむごい遺体とかはありえないよ。あの傑作にそういう手を加えたんだとしたらそれはそれで気に入らないなあ」


なんか変な所で怒ってますけど。


それにしても。もしもカイルに私を助ける気がなかったとしたら、影に攫われた私はそれこそ「むごい遺体」にされていたのかと思うとぞっとする。

同じことを思ったのか、ヘレナ様がカイルに向き直った。


「……貴方に感謝致します。手段はどうあれ、姫様を救って下さってありがとう。手段はどうあれ」


手段を強調するなあ。

カイルはどうしていいかわからない、という顔をこちらに向けてくる。

それに私は王女スマイルを返した。


「ありがとうカイル。改めて感謝します」

「!」


おお。照れたカイルは隣の兵士さんの後ろに隠れた。その人さっきあなたを捕まえてた人だよ。


そして私はなんとなく状況を知ってるヘレナ様を含めた皆さんに、私とルイス様のおかしな結婚についても話しておく。


「ということで、私たちは良好な関係を続けていたのです。虐待などとんでもない話ですわ」

「当人が言うならそれが事実なんだろうが……まあ、傍から見たらということもあるからな」

「いくら誤解されたのだとしてもそれで偽の死体は発見されません」


ヘレナ様の発言に皆がうなづく。


「明らかな捏造の証拠があってそれを仕込んだのが王家の影なら。もちろんこの件の黒幕は陛下しかいないでしょう」

「そうなりますね……」


皆さんが私を気遣うような感じで神妙な空気になる。

ありがたいけど、不要な配慮だ。私の中の陛下への信頼なんてとっくに失ってしまってるからね!

なのでことさら平気な顔で続けてやった。


「つまりもともと陛下はわたくしを利用してルイス様を陥れるのが目的だった、ということかしら」

「それが一番腑に落ちるな。殿下が虐げられるのを期待して無理やりな縁組をしたがその目論見は外れてしまった。仕方ないので自ら殿下を暗殺してスター騎士団長に罪をなすりつけることにした、という話なのかもしれん」

「確かに騎士団長は国民人気も高くて王太子殿下の脅威でもありますが……そんなもの、姫様が王太子殿下と結婚されたら何の心配もありませんわ」

「陛下はわたくしを王太子様の嫁にするのが嫌だったんですわ。きっと」


ルイス様たちとも話した私の自説を言ってみるけど皆さんはあまり納得できないようだ。

そもそもうちの王様ってあまり特権もないし血を流してまで奪い合うものでもない気がするんだけど。

まあその辺りの価値観はそれぞれなのであえて口に出さない。


「ともかくです。わたくしがこうして生きている以上ルイス様たちは間違いなく冤罪です。皆さま、どうかルイス様たちの救出に協力して下さいませ」


ヘレナ様が答えてくれようとするのを退けるようにして、一人の兵士さんが神殿関係者を見回した。


「待ってください、相手は国王陛下ですよ。我々が知らないような……表沙汰にはできない国益の為に殿下たちを排除しなくちゃならないってことだってあるんじゃないですか? そんなの、我々神殿が介入すべきではないのでは……」

「姫様が排除されてもいいと言ってるのですか⁉」


ヘレナ様の剣幕に発言者は体を縮める。

私はぎゅっと両手を握り締める。


私だって。陛下に暗殺されそうになったって知ってから、どうしてってたくさん考えた。

もしかしたら私が死んだ方がいい事情があるのかもって可能性も。でも。


「仮にわたくし達の死亡に意味があるのだとしても。わたくしはそんなもの拒否します。国の為に死んでほしいと、王族であるわたくしやルイス様に面と向かって命じられない理由などクソくらえと思うからですわ。ましてやルイス様たちは名誉まで汚されているのですから」


言い切ってやった。


皆さんはしばらく黙っていた。

最初に口を開いたのはヘレナ様で、何故かカイルを睨みつける。


「姫様に……悪い言葉を教えましたね……!」


そっちか! ごめん、それこそ冤罪です。こっちが素なんです。


不穏なヘレナ様を無視してクロード様が発言した。


「だが、その可能性を考えるなら殿下の生存は隠し通した方がいいかもしれんな。もともと遠からず死亡を装って神殿に入る予定だったんだ。それが少し早まるだけならその方がいいんじゃないか」

「では騎士団長一家はどうなるのです⁉」

「殿下が表に出る以外の救出法を考えるんだな」

「そんなの、どうやって……」


エミリア、と名前が呼ばれて、カイルがこっちを見てるのに気づく。


「僕はこっちの人の意見に賛成だ。ここを出たら君は一生狙われる」

「わたくしを狙った目的はルイス様を陥れる為なのでしょう。でしたら生存を公表してしまえばわたくしを消す意味もなくなるのでは?」

「王家の影に王命の目的なんか関係ないから何がなんでも君を始末しに来るよ! それにもし目的に失敗したからってその後に陛下が一度出した命令を取り消してくれるかどうかなんてわからないし!」


それはそうなのかもしれない。

だけどそんなの、重要じゃなかった。


「こうなったのもわたくしが公爵家でおとなしくしていなかったせいです。ルイス様たちの冤罪をしっかりと晴らして助け出すことはわたくしの身の安全より優先すべき責任ですわ」


正直な気持ちである。

クールに見せてロザリンデ様にはとろけるルイス様、女神の化身のようなロザリンデ様、そのロザリンデ様の膝の上で眠るケント様、見守る屋敷の人たち、の姿が次々と浮かんでくる。

私に生まれて初めてのやすらぎの場を与えてくれた人たち。

私一人の勝手のせいであの一家に災いが訪れるなんて許せないのだ。


「皆さまに王の意志に背けとは申しません。ですので、もしも皆さまが協力して下さる場合には、ただ、ルイス様の冤罪を晴らすためだったという理由を主張して下さいませ。そういう体で、どうか手を貸して頂けないかしら」


ヘレナ様、クロード様、ヘレナ様が信用するという4人の神殿兵の皆さんとお医者さまの顔を見回す。

私は王に排除されそうになっている王女だ。だから王族としての命令は下せない。

手を貸すも貸さないも皆さんの自由意志だ。


動かないクロード様の腕をヘレナ様が懸命に揺さぶっている。

しばらくして、クロード様がはあと息を吐いた。


「……わかったよ、スター騎士団長を助けるまでは手伝おう」

「充分ですわ。感謝します」


他の方々もうなづいてくれて、私はそちらにも礼をする。

一度うつむいて言葉を止めたカイルも、再び顔を上げた。


「だったら僕も君に協力する。君の命は僕が守るし。君の願いは僕が全部叶えるよ」


それに、と言ってカイルは握りこぶしを作る。


「君の所有権があるのはルイスなんだろう⁉ 今度こそ僕は正式に君を譲ってもらえるようあの男に頼む! 盛大に恩を売ればいけるかもしれない!」


うん。まあ。それが成功するかは置いておこう。

協力の交換条件に私の身柄を寄越せとかでなくてよかったわ。

カイルの戦力はあてにできる。


「アリガトウ、頼リニシテマスワ、カイル」

「ああ! 任せてエミリア!」


やる気になったカイルを加えて、私たちは今後の策を考えることにした。


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