おみそ汁
これは昭君がホテルに泊まった時の話です。昭君はお仕事でその日ホテルに泊まることになりました。そういう事は久々でしたので昭君は少しウキウキしました。
ホテルの部屋に到着すると、上着を脱いでぼふっとベットに横になり、うーんと言って伸びたりしました。昭君はそのまま横になったまま窓の外や部屋に飾ってあるお花の絵を眺めながら、今日の晩御飯とかどうしようかなあ。と考えたりしました。このホテルに食べるところあったよなあ。でも、外に行ってもいいなあ。近くに何かあるかなあ。どうしようかなあ。コンビニでもまあ、いいんだけど。スーパーがあればスーパーでも。でもその前にお風呂に入ろうかなあ。大浴場があったよなあ。大浴場に行こうかなあ。昭君は横になったまま、ベットの上をゴロゴロとしながら色々と考えを巡らせました。なにせそんな事は久々でしたので、ウキウキしていたのです。昭君はウキウキしていたのです。
部屋のベットはセミダブルサイズでした。だからなのか部屋自体もちょっと広めでした。だからウキウキしてしまったのかもしれません。とはいえ、昭君は部屋に入ってすぐにベットがある部屋でもそれなりにウキウキしたと思います。要はどういう感じだったとしてもそれなりに楽しめるのです。繰り返しになりますが、昭君はそういう事が久々でしたのでウキウキしていたのです。そのウキウキはそれなりにどんな状況でも楽しめる仕様のウキウキです。
スマートフォンを出して、この近くにあるものを調べたりしようかな。ここに来る途中に何かあったような気がする。それの事とかを調べよう。営業時間とか。何時までやってるのかとか。
昭君はベットに横になりながら考えました。そしてそんな事を考えながら、ちょっとのつもりで目を瞑ってしまいました。ベットに横になって、目を瞑って、そしてそのまま寝入ってしまいました。
昭君は夢を見ました。
昭君はホテルに居ました。そのホテルです。昭君が泊る。その同じホテルの。そのホテルの夢を見ました。
部屋も一緒でした。ベットはセミダブルサイズで。部屋自体もちょっとだけ広めで。昭君は夢の中で現実と同じように上着を脱いでベットに横になりました。そしてその上をゴロゴロしながら色々と考えていました。晩御飯の事とか、大浴場の事とかです。これからの事です。これから明日の朝までの事。どうしようかなあって。どうしちゃおうかなって。
昭君はそういう事を、ウキウキする事を考えながらベットの上ゴロゴロしました。そんな時、ふと部屋に飾ってあった絵に目が行きました。その絵が気になりました。すごく気になりました。どうしてあの絵が気になるんだろう。夢の中で昭君はベットから立ち上がり、絵に近づきました。何かの花が描かれている絵でした。なんのは中は知りません。サイズはそんなに大きくない。ただの絵。普通の。
夢の中で昭君はその絵に手を伸ばしました。埃が溜まりそうな彫り物仕様の額縁。それを掴んで絵を取り外しました。
するとそこに。
そこには。
「はっ」
昭君は目を覚ましました。セミダブルサイズのベットの上に横になっていました。ホテルでした。ホテルの一室でした。一瞬自分ちの天井じゃねえここどこだ。ってなりましたが、すぐに思い出しました。昭君はその日仕事でホテルに泊まることになったのです。そんな事は久々の事で、昭君はウキウキしていたのです。目を覚ました昭君が窓の外を見ると、まだ真っ暗になってはおらず、おそらく寝たのは十分程度の事であったと思われました。
それから窓と反対側にある壁の絵を確認しました。
ある。
そこには、
絵がある。
さっき見たのと同じ。
夢で見たのと同じ絵が。
夢で見た彫り物がされてる額縁の。
ある。
花が描かれている。
飾ってある。
絵が。
壁に。
ありました。
「え、えー」
昭君はベットから立ち上がってその絵に近づきました。夢の中で、さっき見た夢の中で、その絵の裏に、裏って言うか、壁に。
御札。
が貼ってあったような気がしたのです。
御札。
ありがちです。そういうのはもうありがちです。よくある。夏に放映されるドラマとかで。今はもう無いのかな。考えてみたら最近はそんなに無い気がするな。ありがちだからかな。少し前の定番。一昔前の定番。でも、そういうのに今まで巡り合った事とか無い昭君は不安でした。不安になりました。
夢もなんか、あれみたいでした。自分の中の無意識の部分が警告を発しているんだ。みたいな。これは今もあるのかな。それともこういうのももう一昔前になるのかな。分からないなあ。怖いからなあ。見ないからなあ。
絵に、彫り物仕様の額縁に手を伸ばし。
恐る恐る。
昭君はその絵を取り外してみました。
するとそこには。
「あの部屋で誰か死んだりしてるんですかっ」
昭君はフロントに降りて受付にいた人に確認しました。
「どうされましたか」
受付に居た人は驚いていました。
「なんか部屋に御札が貼ってあるんですけども」
昭君は言いました。御札が貼ってあるんですけども。あの部屋で過去になんかあったんですか。人が死んでるんですか。昭君は鼻息荒く、ふんふん言いながら聞きました。
「あ、あれは御札じゃないですよ」
受付の人はああ、あれ。みたいな感じで言いました。
「あれは御御御付って書いてるんです」
「御御御付?」
「御御御付」
「御御御付?」
「御味噌汁」
「おみそ汁」
「はい」
「なーんだ」
「すいません。最初に言っておくべきだったですかね」
受付の人は申し訳なさそうに言いました。
「いやいや、こちらこそすいませんでした。騒いでしまって」
昭君はホッとしました。
「いえいえ、まことに申し訳ございません」
部屋に帰った昭君は改めて、その御札だと思ったものを確認しました。確かに、確かにそう言われたらそう見える。すごく達筆だからなあ。これ。なんて書いてあるかわからないんだなあ。分からなかったんだなあ。御御御付かあ。御御御付なあ。
大根と薄揚げのおみそ汁食べたいなあ。
そう思いました。
昭君はそれから大浴場に行ってお風呂に入りました。
その日の夜、昭君は外でご飯を食べて、お酒を飲んで、そのホテルの部屋に帰ってきました。そのまま部屋でもう一本缶チューハイを飲んでもう寝てしまいました。
夜中、部屋の隅にお化けが出ました。
しかし昭君はぐっすり眠っていたので、起きることはありませんでした。今度は夢も見ませんでした。昭君は朝までぐっすりと眠っていたので、お化けにも、何にも気が付きませんでした。