公爵令嬢はピンクブロンドの男爵令嬢が気に入らない
12/15に修正を入れました。
印象が変わっていればいいのですが・・・。
ある美しい少女が居た。名前はシューナ・バレリー。
男爵家の娘で、それほど裕福ではなかったけれど。両親にも、使用人たちにもとても愛されて、大切に育てられた。
美しい髪色はピンクブロンド、陽の光が当たるとキラキラと光り、それはもう、本当に美しかった。
そのシューナに嫉妬心も顕に虐めたのは公爵家の令嬢アスティア・ハーバードだった。
彼女の髪色は黒に近い茶色で、それでも美しい髪だったが、嫉妬心は、シューナを見る度に掻き立てられていた。
公爵家の権力の笠の下にいる皆に一つ一つは些細なことだったけれど、虐められ、シューナは人に嫌われたことも初めてだったので、とても塞ぎ込んだ。
それを見かねたのが、アスティアの婚約者の第二王子だった。
何度もアスティアに高位の立場の者がすることではない。と苦言を呈したが、聞き入れられることはなかった。
第二王子は男爵家という小さな家の子を虐めるのを止めるようにと父に頼んで、公爵に苦言を呈すと、アスティアの虐めは止まったかのように見えた。
それは陰に隠れ、ほとんどの人は気が付かなかったけれど、シューナの友人達は気がついていた。
わざと食事がひっくり返されて「あら、ごめんなさい」と謝られて「貧乏人には食べられないでしょう?」と言って、食堂で一番高いものを買い与えたりした。
目の前でノートが破かれ「もっといいものを買ってあげるわ」と言って男爵家では買えないような高価なノートを渡したりしていた。
それらは隠れて行われ「もっといいものを買い与えたのですからいいでしょう」と宣った。
第二王子は、自分の婚約者が男爵家令嬢を虐めるような愚かなことさえしなければ、才色兼備の素晴らしい婚約者だと思っていた。
アスティアがシューナに嫌がらせで、掛かりきりになっていた時を、取り戻すかのように、デートに誘い、とても楽しい時間を過ごしているつもりになっていた。
だが、アスティアはシューナなどという男爵娘を庇った第二王子が許せなかったし、第二王子の妻になることに拒否感を抱くようになっていた。
我が公爵家へと婿入してくるくせに、上位の立場から口出されることが嫌だった。
二人の気持ちはすれ違い、アスティアから第二王子へと「婚約破棄したい」と申し入れた。
それも卒業式のダンスパーティーの真っ最中に。
第二王子は「考え直すように」とアスティアを説得したが聞き入れられず、肩を落とした第二王子は「そこまで私が嫌ならば如何しようもないね」と苦笑しながら、婚約破棄を受け入れた。
ただ「私達の婚約は、陛下がお望みの婚約だから、アスティアが陛下から婚約破棄を取り付けるように」とアスティアに伝えた。
アスティアは「承知いたしました」と言って、細いナイフを袖に隠し持っていて、シューナの元へと足音も高く進み出て、シューナの、お尻よりもまだ長かった髪をつかんで首元で一気にナイフで切り払った。
シューナの首元には血が滲んでいた。
「これで満足だわ」とアスティアはつかんでいた髪をその場で手を振り払いながら、はたき落とし「第二王子を味方につけたからと言って、いつでも誰からでも守られているわけじゃないのよ」と言って高笑いした。
髪をいきなり切られたシューナは何が起こったのか一瞬わからず、自分の肩の辺りの髪を探しても手に当たらないことに気がついて、叫び声を上げた。
それは慟哭といってもいい叫び声だった。
アスティアの言い分は「元々気に入らなかった子に制裁を加えただけだわ」と、公爵家の女王然と構えて優雅に立っていた。
けれど、アスティアの背後には誰もいなくて、皆シューナの側へと駆け寄っていた。
アスティアは自分の周りを見回して、今まで権力の笠の下にいた者達の名前を呼んだが、誰もアスティアの側には行こうとしなかった。
先生が、警らを呼んできて、アスティアを逮捕しようとした時、アスティアが持っていたナイフが、たまたま警邏の一人に当たり、大きな血管に当たったのか血が吹き出した。
アスティアは少し怯んだが、公爵家の娘が、たかが警邏隊の一人を切りつけたところで大した問題にはならないと、平気そうな顔をしていた。
切られた警邏の一人は、学生の治癒能力がある子たちが必死に治療して、一命は取り留めたが、失った血が戻ることは直ぐには叶わない。
急いで医務室へと連れていかれて、アスティアは警邏に足元を棒で殴られ、倒れたところを後ろ手に縛り上げられた。
アスティアには、誰も治療魔術を使おうとはしなかった。
アスティアは皆に「覚えていなさいよ。このままでは済まさないからね」と言って、警邏隊に引きずり出されていった。
直ぐにでも出してもらえると思っていたのに、丸一日が経っても父が会いにこない。
殴られた足は、ヒビが入っているのか。折れているのか、痛くてたまらない。
立ち上がることもできずに「治癒師を呼びなさい。私は公爵令嬢よ!!」と何度も叫んだ。
「それだけ叫べば喉も渇くだろう」と監護人が私の目の前に来て、美味しそうにゴクゴクと水を飲むが、アスティアには与えられない。
「あなた達、公爵令嬢にこんな事をしていいと思っているの?!」と叫んでから、アスティアは口を開かなくなった。
犬に水を与えるように、お皿にコップ半分ほどの水を入れて「ほら水だ。飲め」と差し出されたのは一日半が経っていた。
アスティアは公爵令嬢という立場をかなぐり捨てて、足が痛むために床の上を這いずり、お皿を持ち上げて飲み干した。
「もっと水をちょうだい」
と哀れっぽく頼んだが、直ぐにはもらえず、一時間ほど経ってから、また皿にコップ半分の水が入れられた。
少し落ち着いたアスティアは「お父様を呼んで頂戴」と何度か言ったが「公爵様はここに来る暇などないほど忙しくしていらっしゃるよ」と一人の監護人が言った。
「どういうこと?」と尋ねると、陛下に呼び出されていて、アスティアがしたことの尻拭いをしているのだという。
「たかが男爵令嬢の髪を切ったくらいでそんなに騒ぐことないでしょう!!」と文句を言うと「手を出せ」と言われて牢の隙間から手を出すと、木枠の錠が掛けられ、牢の扉が開けられ、監護人がアスティアの背後に回った。
ダンスパーティーのために綺麗にアップされていた髪はほつれ落ちていて、その全てが監護人の手で下ろされた。
監護人はアスティアの髪を一纏めに持って、肩よりももっと短く切り取った。
監護人が牢から出て、扉に鍵をかけて木枠の錠を外されて、監護人が目の前でアスティアの髪を汚いものかのように手を振り払った。
その一連の仕草を見て、アスティアは出せうる限りの声を出して叫んだ。
叫びが収まった時、監護人が「自分のしたことの意味を知ったか?」と言って、また皿にコップ半分ほどの水を入れた。
「それに貴方様は我々の仲間を殺しかけたんだ。あなた様にとって、たかが警邏隊の一人でも、我々にとっては大切な仲間なんですよ」
アスティアは手の届く範囲の髪をかき集め、一本一本大事そうに集めていた。
一回りも小さくなった父がやってきてくれたのは、二日半が経ってからだった。
アスティアの髪が短く切られているのを見て、ため息を吐いた。
「お父様っ!!わたくしの髪がっ!!」
「お前がしたことを仕返しされただけだ。仕方なかろう」
「そんなっ!!男爵家の娘と公爵家の娘では意味が違いますっ!!」
「何も違わないよ。お前の髪のことなんてどうでもいい。お前が怪我を負わせた警邏の一人は未だ重症だ。お前に与えられる罰はとても重いものになると思え」
「たかが男爵家と警邏の一人や二人がどうしたというのですか!私は公爵家の娘ですよ!!」
「いや、今はもう伯爵家の娘だな」
「えっ・・・?!どういう意味ですか?」
「王命で婚約していたものを勝手に婚約を解消したこと、男爵家とはいえ、女性の髪を切って首筋も同時に切り、警邏隊の一人を殺しかけたこと、そんな娘にしか育てられなかった罰として、我が家は伯爵家へと降格したんだよ」
父親はアスティアをこの手で殺したいと思った。
「公爵家の娘を断頭台に送るのは醜聞が悪いので、我が家は伯爵家へと降格させられた。そしてお前が髪を切った男爵家を、警邏隊の隊員の二人、弱者を守ると陛下が仰った」
「そんな事ありえませんでしょう?!」
「陛下がそう仰ったのだから・・・」
アスティアは父がさっき言った言葉を思い出す。
「さっき、断頭台って・・・」
「その覚悟はしなさい。掛け合ってはいるが、誰もお前の味方をしないのだ。卒業パーティーにいたあの場の誰も」
「今まで私の下についていた者達もですか?」
「そうだ」
「そんなっ!!」
「自分が髪を切られて、貴族の女性の髪を切ることがどれほど酷いことか解っただろう?私は当分会いにはこれない。屋敷を替わらねばならないからな」
「嘘っ!そんなのありえないわっ!!」
アスティアの父親は叫ぶアスティアを振り返ることなく立ち去った。
本当にアスティアを助けるための嘆願は誰からも願い出られることはなかった。
その逆に最も重い罰を与えてくれと何人もの人が嘆願した。
その署名の多さに、高位貴族たちが低位貴族を守らねばならないと思わざるを得なくなった。
陛下は重々しく、アスティアが一生髪を伸ばすことを禁止し、修道院へと送られることが決まった。
そして、修道女のベールをかぶることを禁じられた。
アスティアの足は治療されないまま治ってしまい、いびつな方向へと足が向いたままになってしまった。
それも治癒されないことと決まった。




