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「なる程、分かりました。しかし何故、俺に国家機密を?」
「俺は、この施設で研究者をしている。当然、他のクローンも見てきた。その中で、君は他のクローンとは、ちょっと違う。いや、かなり違うな。研究者が第六感的な事を信じるのは、どうかと思うだろうが、この世界はゴースト族も居るからね。第六感も、馬鹿には出来んのだよ」
俺は、転生者だからね。
確かに、色々な意味で違うだろうな。
まぁ一々、説明する気も無いがね。
「しかし、その国家機密を誰かに喋るとは、考えなかったんですか?」
「それだ。君が、他のクローン達と違う所だよ。そもそも、覚醒したばかりのクローンは、最低限の知識はあるが、会話や思考する事をしない。少しずつ時間を掛けて、成長して行く。赤ん坊の様にね。だからって、感情が無いって意味じゃ無いし、考える事が出来ない訳じゃ無い。簡単に言うと、真っ白なんだよ。本来なら、命じられないと動かないし喋らない」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。それに君は、国家機密を喋る気が無い。そうだろう?」
喋る気が無いって言うか、その情報を与えてくれても、どうこうする気が無い。
只、平和に平穏に、生きていければ良い。
「そうですね。喋る気は、無いですね。でも、もし喋ったら?」
「・・・君は、汗臭いビール腹のおっさんが、バタフライマスクを装着して、ハァハァ言いながら全裸で迫って来たらどうする?しかも、逃げられない様に、手脚を拘束されてね。そして、その光景を全て記録され、配信される。君は、そんな羞恥プレイが好きかな?」
いや、それ羞恥プレイじゃ無くて、拷問だからね。
おっさんが、珈琲を口元に運びながら「君を信頼している。その言葉じゃ、駄目かな?」と、俺の目を見ながら言った。
「分かりました。喋りません」
「そう言ってくれると、思ったよ」
ニヒルな笑顔、とかいうヤツですね。
ケッ、イケメンは良いよね。
爆発しろ、もげてしまえ。
静かに怒りを燃やす俺を、イケメン髭面中年が眺めている。
「リョウ、君は今後1年ほど此処で暮らす。で、俺の名前だ。俺の名前は、河野響だ河野でも、響でも、パパでも好きな呼び方をしてくれ、但し礼儀は弁えて、さん付けしろよ?」
「分かりました。パパさん」
「すまん、やっぱりパパは無しだ」
「チッ」
「舌打ちした?ねぇ今、舌打ちしたよね?君は、本当に覚醒したばかりのクローンか?凄く感じが悪いぞ」
「すみません。思わず気分が悪くなり、やりました。反省してますが、後悔はしてません」
「本当に、研究者として信じられん。君は、まるで前世の記憶がある様な感じだな。君は転生者かい?」
「ハハハ、まさか偶々ですよ。多分、エリートの出来損ないだから、色々とバグってるんじゃないですか?」
「バグがあるなら、検査の段階で判るよ。この施設には、様々な者が暮らしている。1年ほどは保護期間だが、君が望めば施設内で暮らす事も出来る。が、仕事はしてもらう。そして、この施設で生活する者の中に、転生者だと言う者が居てね。宗教を否定する気は無いが、俺は信じていない。研究者としては、その者の言葉は、興味深い話として聞いているよ。まぁ、君は要観察だな」
ゴースト族が居て第六感は信じるのに、宗教は信じて無いのか。
まぁ、この世界は科学的にゴーストと言う存在が、肯定されているからね。
その科学的にってのを、説明しろって言われると、難し過ぎて俺には無理だ。
だから、そう云うもんだと思って、割り切って行こう。
「河野さん、直近の俺の行動ですが、どうすれば良いですか?」
「うん、施設内を案内させるよ。案内役はミリィだ」