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昼飯を一緒に取る為、弘崎君と共に出掛ける。
お勧めの店があるそうだ。
「此処です!俺の左手が疼くぜ!」
弘崎君は、特に何とも無い左手をワキワキしながら呟く。
「じゃ、片目が疼く!此れは、共感?!とか、言っとこうかな?」
と俺が言うと、弘崎君は此方をジッと見詰めて動かなくなる。
「・・・リョウさん、貴方はやっぱり俺の運命の人!ソウルメイトだ!」
弘崎君が、俺を抱きしめる。
ちょっと、待って?
色々な意味で、危ない言動だよ?
運命の人って部分と抱きしめるってのは、腐の着く方々を悦ばせかねない事だよ?
大体、弘崎君は顔立ちが綺麗なんだよ。
この世界は、美形しか居ないのか?
店の前で若い男に抱きつかれては、営業妨害に成りかねない。
取り敢えず、引き剥がし店に入ろう。
「こんにちは!マスター、いつものね!今日は、お客さんを連れて来たよ!」
「オウ、いらっしゃい!いつものか?丁度、瑠璃が良いのを仕留めて来たんだよ!瑠璃、京が来だぞ!」
そう言って店の奥から顔を出したのは、顔の左側に大きな傷跡がある渋い中年だった。
「そいつは、楽しみだな!早くエネルギーを充填しないと、世界を救えないからな!」と、言って空いてる席に腰掛ける弘崎君。
連れて来られた店は、ジャイアントボアの専門店『ボア揚げ屋』という、前世で言うところの定食屋だな。
リリーさんが連れて行ってくれた店もそうだが、前世の記憶がある人間としては、古臭い感じの店が非常に落ち着くな。
「キョウ、いらっしゃい!」
店の奥から、ショートカットの金髪で長い耳の女の子が出てくる。
「瑠璃、今まで有難う。俺は旅に出なくてはならない。でも、必ず帰って来る」
「あ、うん。分かった。取り敢えず、いつものね?こんにちは、いらっしゃいませ!」
俺に挨拶した瑠璃と呼ばれたエルフの娘が言う、いつものとは旅に云々の事か注文の事か?俺は、そんな事を思考する。
「リョウさん、瑠璃とは幼馴染なんです。家の両親とマスターが仲良くて、子供の頃から一緒だったんです。所でソフィさんは?」
「そうなんですよ。キョウったら、子供の頃から左手が疼くとか、沈まれ俺のダークソウルとか、色々と言って笑わせてくれるんです!お父さんも昔から聞いてるから、今では何も言わなくなりましたけどね。ママなら、買い出しに行ってる」
「まぁ、京は此れが普通だからな」
調理しながら聞いていた渋い中年が、そう応える。
「此方は、リョウさんだ!俺の眠っている力を引き出す事が出来る、魂の契約者だ」
「はじめまして、リョウです。ミラージュスパイダーの糸を加工して貰う為に、お店に行って話をしたら気が合うから、お昼を一緒にって誘ったんですよ」
「そうだったんですか、キョウが加工するミラージュスパイダーの糸は、人気ですからね」
瑠璃さんが、お茶をテーブルに置きながら話してくれる。
「ご注文決まりましたら、其処のディスプレイに、お願いしますね」
「弘崎君が頼んだのは、何ですか?」
「俺が頼んだのは、ボア揚げ丼です。前世風に言うと、タレカツ丼ですね」
なる程、それは良いね!
「じゃ、俺も同じ物にします」
そう言って俺は、テーブルのディスプレイを操作して注文を決定する。
「弘崎君、実は俺以外ににも転生者が居て、その人に弘崎君の話をして、会うと言えば連れて来ます。それで、その人に弘崎君の話をしても良いですか?」
「マジっすか!勿論、構いません!宜しく、お願いします」
「分かりました。今日、帰ったら話してみます」




