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「・・・此処は?」
「おぉ、目覚めたか?此処は施設だ。名前は、言えるな?」
名前は、リョウ。
そう、俺の名前はリョウに決めたんだ。
新しい人生の始まりだ。
頭の中に、色々な知識やイメージが回っている。
俺は、斜めに立っているカプセルから、身体を出そうとした。
「すぐ動くなよ?まだ、目覚めたばかりだ、其処に居ると良い」
そう言って髭面の中年が、驚きを含んだ笑顔を向けてくる。
別に、不細工じゃ無い。
何方かと言うとイケメンな、ナイスミドルとか言う生物だ。
だからって、俺が頬を染めるなんて事は有り得ない。
残念ながら、俺は女の子が大好きだ。
残念だったな、ナイスミドル。
「あ〜、色々と説明するが良いか?先ず、名前は言えるな?」
「俺の名前は、リョウ」
「うん。問題無いな。取り合えず、腰にコレ巻いとけ」
そう言って、イケメン髭面中年が、俺にタオルを手渡す。
おいぃ!!
素っ裸じゃねぇか!
見せもんじゃねぇ、金取るぞ!
取り合えず、黙って腰にタオルを巻く。
「で、色々と説明だ。お前さんは、クローン工場で造られたクローンだ。自分の名前や世界の最低限の知識は、頭の中にインストール済みだ」
うん。
教わっていないのに、色々な事が分かる。
「肉体年齢は、すぐ独り立ち出来る年齢に設定されている。まぁ、もし気に要らなければ、自分で稼いで、もっと若い身体を手に入れれば良い」
今の俺の身体は、16〜18歳位かな?
以前の年齢から、大分若返ったな。
「それから、暫くの間は施設で保護状態になる。幾らすぐ独り立ち出来る肉体でも、目覚めてすぐに放り出すのは、人道的に問題があるからな。ここ迄で、何か質問はあるか?」
「クローンは、皆この年齢なんですか?もっと、若いクローンは居ないんですか?」
「うん。一口にクローンと言っても、色々とあってな。まぁ何だ、取り合えずカプセルから出て、其処の服を着ると良い。後、珈琲でも飲むか?俺は、砂糖とミルクを多めに淹れるのが、好きなんだがね」
ほう?
それは、俺の好みと同じだな。
「では同じ物を、お願いします」
「うん。じゃ、用意しよう」
そう言ってイケメン中年は、自分の眼前に出現した光るパネルを弄る。
アレだよ。
よくSF物とかに出てくる、光るパネルだけ空中に浮かんでるアレ。
スゲぇとか思いながら、用意されてた服を着る。
普通のジャージだね。
「さあ、座ってくれ」
匠が声を掛けると、何も無い地面から、ニュッと柱が生えて来ました。
すると、どうでしょう?
柱が変形して人が腰掛けるのに、丁度いい形になりました。
正に、匠の技。
地面から出てきた椅子を眺めつつ、前世界の某テレビ番組のマネを心の中で実況してみた。
お互いに向かい合い椅子に腰掛けると、二人の間に柱が出現しテーブルに変形した。
凄いな、科学技術が進歩してると聞いていたが、こんなに面白いのか。
こんなの見せられたら、オラ、ワクワクすっぞ。
と、小ネタを挟みつつ、関心しながら眺めていると「お茶を、お持ちしました。御主人様」と、メイドさんが部屋に入って来た。
「有難う。ミリィ、今日も可愛いね」
「有難う御座います。御主人様」
表情が、全く変わらない美人だ。
「紹介するよ、メイドで機械族のミリィだ」
「メイドで機械族?」
「うん。彼女はロボットじゃ無く機械族だ、因みにメイドは俺の趣味だ」
クッ、この変態め!
物凄い、趣味全開じゃねぇか。
スカートが短く無く、正統派のメイド服。
黒い長い髪を綺麗に纏めて、上にセットしてある。
やべぇ、このおっさんマジで変態だ、俺と気が合うな。
「そうそう、ミリィに気安く触れるなよ?機械族である彼女は、ロボット3原則なんぞと関係無く、防衛機能が作動するからね。ハッハッハ」
そう言いながら、おっさんがメイドさんの尻を触る。
すると、メイドさんの腕からカシャンと音がすると共に銃が出て、おっさんの額に狙いを定める。
「御主人様、オイタはお辞めください。セクハラで訴えますよ?」
「分かって貰えたかね?結構、命懸けだよ?ごめんよミリィ、君が余りにも魅力的でね、仕方無かったんだ」
両手をバンザイしながら、おっさんが言い訳している。
「分かって頂けたなら、結構です。ですが、次にオイタしたら、オヤツ抜きですよ?」
カシャンと音をさせ腕に銃を仕舞込み、おっさんに言う。
「では、失礼します」
ミリィさんは、お辞儀して部屋から出ていった。
「・・・此処だけの話なんだがね、ミリィは、あぁ見えて感度抜」
チュンと音がして、壁を見ると穴が空いてる。
おっさんの足元すれすれの所には、焦げ後の付いた穴が穿たれている。
「か、彼女は、とても素晴らしいメイドで、俺のパートナーさ!取り合えず、話の続きをしようかね」
おっさん、冷汗止まらない状態だぞ、大丈夫か?
オヤツ抜きかな?
「こ、これは俺が命懸けで、君に世間の常識というかだな。まぁ、今後の事を考えて色々、説明しようと思ったんだよ?」
俺は、コントを見せられているのか?
それとも、アレか?
仲の良いアベックの、痴話喧嘩的な物を見せられているのか?
カップルじゃ無くて、アベックな。
俺は黙って、出された珈琲を口にする。
違いが分かる男、シャ○・アズナ○ル的な雰囲気を醸し出しながら、おっさんを眺める。
「で、さっきの話の続きだ。一口にクローンと言っても、様々な者がいる。小さな赤ん坊から、君の様に成長した姿の者もいる。君は成長した姿で、造られた存在だね」
「何故、成長した姿のクローンを造るのですか?」
「簡単な事さ、赤ん坊から育てるよりも、色々と楽だからね。それに、コレは国家機密なんだが、君なら話しても良さそうだ。君はエリート部隊を造る為の試作だったんだ。しかし、残念ながら試験の結果、普通のクローンと大差無い結果だった。だが、始末してしまうのも勿体無いし、何よりクローン人権団体も五月蝿い。だったら普通のクローン人間として社会に出し、社会貢献して貰おうと、そう国は考えたのさ」
なる程、言わば出来損ないって事か。
でも、普通より劣っているとか、何をしても頭ごなしに否定される様な事は無さそうだ。
以前の世界では親や教師から、普通より劣っているとか、お前は何をしても駄目な人間だとか、散々言われて来たしね。
それに比べれば、マシな方だ。