♥ 嗚呼っ、婚約破棄!! 5
まるで世界を手に入れた覇者のように偉そうにソファーの上に座っているトゥヱの右横に腰を下ろしたワタシは、少しドキドキしていました。
絶世の美男子が直ぐ隣に居るのですから胸がドキドキと高鳴るのは仕方無いと思います。
トゥヱはワンコの方が良いと思えて止みません。
ワタシの部屋の隅──カーペットの上に複雑な魔法陣が浮かび上がりました。
トゥヱ
「 ≪ 魔界 ≫にある我の住み処と主の部屋を繋げた。
これで我のシモベ,ゲボク,パシリが自由に往き来が出来るようになったぞ 」
トメリロレンス
「 えっ……≪ 魔界 ≫と繋がったのですか?
あの魔法陣の上に立てば≪ 魔界 ≫へ行けるの? 」
トゥヱ
「 主よ、往き来が出来るのは我のシモベ,ゲボク,パシリのみだ。
主や我は≪ 魔界 ≫へは行けないぞ 」
トメリロレンス
「 そ、そうなの…。
≪ 魔界 ≫へ帰ってしまったシエル,セヴィス,デリアンへ会いに行けると思ったのだけど…。
無理なのね… 」
トゥヱ
「 ≪ 魔界 ≫へ行きたいのか?
正気か、主よ。
≪ 魔界 ≫の魔素は濃度が異常に濃いんだぞ。
脆い人間が≪ 魔界 ≫で1息吸うだけで体内の臓器が腐り、死ぬぞ 」
トメリロレンス
「 そ、そうなの??
人間は≪ 魔界 ≫で生きられないのは本当だったの…。
…………≪ 人間界 ≫にも魔素が大地から噴き出しているでしょう?
そんなに濃度が違うの? 」
トゥヱ
「 ≪ 人間界 ≫に噴き出している魔素の濃度は人間には濃いだろうが、魔族には薄い。
魔素の濃度が濃くなれば、≪ 魔界 ≫と≪ 人間界 ≫が繋がり、魔物が出ては来るが、低級クラスの魔物ばかりだ。
人間は低級クラスの魔物を倒す為に命懸けで苦戦する程に弱い。
そんな最弱な人間が≪ 魔界 ≫で生きられるわけがなかろう 」
トメリロレンス
「 そ…そうなの??
〈 セレネイ 〉が魔素を薄めてから騎士が魔物を倒すと聞いているけれど……、あれで低級クラスの魔物なの?? 」
トゥヱ
「 ≪ 魔界 ≫を統治する魔王の強さに比例して魔物の強さは変わる。
魔素を通り≪ 人間界 ≫に出現した魔物の強さには差がある。
亀裂が何処の≪ 魔界 ≫と繋がるのか誰にも分からないからな。
≪ 魔界 ≫は1つではなく幾つもある。
魔王が強ければ、生息する魔族の強さも上がる。
魔神クラスの強さを持つ低級クラスの魔物が生息する≪ 魔界 ≫もあるぐらいだ 」
トメリロレンス
「 …………そんなに強い魔物が≪ 人間界 ≫に出て来たら≪ 人間界 ≫は大変な事になるわね… 」
トゥヱ
「 そうだな。
大陸は一夜で炎の海と化すだろうな。
心配するな、そんな規格外な≪ 魔界 ≫と≪ 人間界 ≫が繋がる事はそうそうない 」
トメリロレンス
「 …………そうだといいのだけど… 」
トゥヱ
「 主を不安がらせてしまったようだな。
人間が倒せぬ程の魔物が出現した時は、我のゲボクに始末させるとしよう。
そんな顔をするな、我が主よ 」
トメリロレンス
「 トゥヱ…………有り難う。
トゥヱは優しいのね(////)」
トゥヱ
「 我は優しくはないのだが…。
≪ 魔界 ≫へ行く事は諦められよ、主 」
トメリロレンス
「 …………分かったわ…。
生きてる内に家族と会えないのは辛いわね…。
シエル,セヴィス,デリアンは元気かしら? 」
トゥヱ
「 主よ、あまり魔女に肩入れするでない。
主と我を引き逢わせてくれた事に感謝はするが、魔女には関わらぬ事だ。
≪ 人間界 ≫に居ない魔女の事は忘れて生きよ 」
トメリロレンス
「 トゥヱ…… 」
トゥヱ
「 主には我が居る。
主の家族は魔女ではなく我だ。
我を慕い頼るが良い 」
トメリロレンス
「 トゥヱ……有り難う。
ふふふ…そうね?
今はトゥヱが居てくれるものね(////)」
トゥヱ
「 主は我の番だからな。
我には遠慮をするでないぞ 」
トメリロレンス
「 ふふふ…有り難う。
ねぇ、トゥヱ…。
折角だから、1つ我が儘を言ってもいいかしら? 」
トゥヱ
「 我に叶える事の出来る望みならば言えばよかろう。
言ってみよ 」
トメリロレンス
「 …………ワタシの事を “ 主 ” と呼んでくれているけれど、 “ 主 ” と呼ぶのを止めてほしいの 」
トゥヱ
「 我に『 主 』と呼ばれるのは嫌か? 」
トメリロレンス
「 そうではないの。
トゥヱとワタシは家族でしょう。
“ 主 ” ではなくて “ トレス ” と呼んでほしいの。
皆はワタシの事を “ ロレンス ” と呼んでくれるけど、トゥヱには “ トレス ” と呼んでほしいわ。
トゥヱはワタシにとって特別だから…。
どうかしら?
叶えてくれる?? 」
トゥヱ
「 ……………………承知した。
主の事は今から “ トレス様 ” と呼ばせてもらう 」
トメリロレンス
「 敬称は付けないで。
トゥヱとワタシは友達で家族なのよ 」
トゥヱ
「 ………………………… 」
トメリロレンス
「 難しいの? 」
トゥヱ
「 ………………承知した。
それが主の望みならば叶えよう。
…………トレス 」
トメリロレンス
「 有り難う、トゥヱ!
嬉しいわ(////)」
トゥヱ
「 喜んでもらえて何よりだ… 」
トゥヱは大きな溜め息を吐いて天井を仰ぐような仕草をしていました。
何故かしら??
トメリロレンス
「 ねぇ、トゥヱ。
トゥヱのシモベさんは何時出て来てくれるの? 」
トゥヱ
「 我が呼べば現れる。
我のシモベが必要か? 」
トメリロレンス
「 ワタシの知り得ない婚約者の動向を探ってくれるのよね?
お願いしたいわ 」
トゥヱ
「 承知した。
θλωπλφγδσ──── 」
トメリロレンス
「 トゥヱ、今のは何語なの? 」
トゥヱ
「 魔界語だが。
トレスは初めて聞くのだったな 」