♥ 嗚呼っ、婚約破棄!! 1
腹違いの兄兄弟であるシエル,セヴィス,デリアンが母親と共にヒルトクッグ邸を出て、母親の故郷へ旅立ってから早3ヵ月が経ちました。
殿方から婚約を申し込まれた日から約4ヵ月が経とうとしています。
シエル,セヴィス,デリアンは無事に故郷へ着けたでしょうか…。
ワタシには未だに信じられません。
シエル,セヴィス,デリアンから魔女だと打ち明けられた時は、冗談を言われてからかわれたと思いました。
けれど……黒々とした4枚の翼を見せられては、シエル,セヴィス,デリアンが魔女である事を信じるしかありませんでした。
抑、シエル,セヴィス,デリアンの母親が魔女だったのです。
元来、魔女という者は≪ 魔界 ≫で暮らしているそうですが、稀に≪ 人間界 ≫へバカンスへ来るのだそうです。
妾も魔女仲間と共に≪ 魔界 ≫から≪ 人間界 ≫へバカンスへ来ていたそうです。
≪ 人間界 ≫でバカンスを楽しんでいた妾── 魔女のマージョン ──は、当時貴族令嬢だったお母様と出会ったそうです。
若かりし頃のお母様は、怪しい黒ずくめの者達に誘拐をされていたそうです。
誘拐犯が何処の手の者なのか──、何者か──、分からず仕舞いだったそうですけれど、お母様を助けた事で、魔女はお母様に気に入られてしまったそうです。
お母様が魔女を気に入り、「 お姉様♥ 」と慕うので、魔女は仲間と≪ 魔界 ≫へ帰るのを中断して≪ 人間界 ≫に残ったそうです。
お母様がヒルトクッグ伯爵家へ嫁ぐ事が決まった時は、魔女の同行を強く希望したそうです。
魔女は建前上お母様の専属侍女として、お母様と共にヒルトクッグ伯爵家へやって来たそうです。
シエル,セヴィス,デリアンの話を聞いて、何故お母様が異常な程に妾を慕い、溺愛していたのか──、理由が分かりました。
妾は若かりし頃のお母様を誘拐犯から救い出してくれた恩人だったのですね。
それでも──、魔女がお母様の恩人であったとしても──、事情はどうあれ──、本妻が妾に四六時中ベッタリなのは如何なものかと思うのですけど……。
何故、お父様がお母様の恩人である魔女を妾にしたのかは分かりませんでした。
お父様かお母様に聞くしかないのでしょうけど……今のワタシには聞ける勇気はありません…。
お母様の恩人である魔女は、お父様の妾になり、シエル,セヴィス,デリアンを出産し、母親となりました。
もしかしたらお母様は、恩人である魔女と家族になりたかったのかも知れません。
実際にシエル,セヴィス,デリアンとワタシは腹違いではあるものの、本当の兄兄姉弟のように仲良く育ちました。
姉と妹とは最後まで仲良く出来ませんでしたけれど……。
共に夫を共有し、子を作り、同じ屋敷で暮らす家族になる事をお母様が本気で望んでいたのなら────。
嫁ぎ先へ魔女を強引に連れて来たお母様ですから、有り得ない話ではないかも知れません。
真相を聞く勇気はありませんけれど……、ワタシは勝手に “ お母様は魔女と家族になりたかったのだ ” と都合の良い考えを自分に言い聞かせる事にしました。
鍵を掛けた子供部屋の中で、シエル,セヴィス,デリアンは背中には黒々とした美しくて立派な4枚の翼が生えている姿をワタシに見せてくれました。
翼だけではなく、魔法も少しだけ見せてくれました。
本当にシエル,セヴィス,デリアンが魔女の子供なのだど、思った時は悲しみの津波に押し流されるような気持ちになりました。
シエルが≪ 人間界 ≫で人間の姿を保っていられる期間が切れようとしている事を教えられたからです。
人間の姿を保っていられなくなった時、魔女の身体は塵と化して消えてしまうそうです。
人間の成人年齢は15歳ですが、魔女の成人年齢は100歳なのだそうです。
魔女は成人を迎える迄は魔素が豊富な≪ 魔界 ≫で暮らさなければならないそうです。
100歳を迎え、成人になれた魔女は自由に≪ 人間界 ≫と≪ 魔界 ≫を往き来する事が出来るようになるそうです。
≪ 人間界 ≫へ気軽に日帰り旅行やバカンスをしに来れる事を知った時は、嬉しかったですけれど……100年後の≪ 人間界 ≫にワタシは生きていません…。
シエル,セヴィス,デリアンと別れてしまったら、ワタシが生きている間に再会する事は出来ないのです…。
「 これからも一緒に暮らしたい 」と「 ≪ 人間界 ≫に残ってほしい 」と思いを吐き出し、我が儘を言う事はワタシには出来ませんでした…。
ワタシの我が儘で≪ 人間界 ≫に残ったのシエル,セヴィス,デリアンが塵と化して消えてしまうのは嫌だからです…。
2度と会えないと知ったワタシには泣く事しか出来ませんでした。
ワタシは人生で初めて、泣きじゃくり……声を出して大泣きしてしまいました…。
怒濤の悲しみに襲われる──とは、このような事を言うのでしょうか……。
シエル,セヴィス,デリアンから真実を話された日から、懇情の別れとなる日まで1週間を切っていました…。