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契約①


「そんなことが……本当にあるんだな」



結局、道中では話が終わらず、今日はグランが家に泊めてくれるということになった。男性の家に泊まるのは、大分昔にギラードの実家に行った時以来だろうか。グランの家は余計なものが少なく、落ち着いた雰囲気を感じた。



そして彼に一通り事の顛末を話終えると、彼は心底不思議そうにしていた。彼も元冒険者ということで私に「調整」が起こったことは、やはり理解に苦しむといった様子だ。最初は笑い飛ばされると思っていたが、まるで自分の問題のように一緒になって考えてくれて嬉しかった。



「まぁ、この世界の神様なんてのはクソ野郎だからな。お前もこれに懲りてとっとと信仰なんてやめちまえってんだ」



「ちょっと!誰かに聞かれたらマズイって!」



「誰も聞きやしねーよ。第一、ここは俺様の家だ」




そういえばそうだった。冒険者の都合上、決まった住居を持たず、宿や野外で寝泊まりすることが非常に多い。当然、宿では貸切でもないから大騒ぎするような真似は出来ない。



私達と同じ金等級の冒険者にはそのことを鼻にかけて、店や宿で横暴の限りを尽くす者もいるが、そういった輩は嫌いだ。上位の立場にあるものとして、他の人の手本になるような品位ある行動を取らなければいけない。



というのが実家の教えだった。久しぶりにそのことを思い出したが、何か問題を起こしたことは無いので別にヨシとしよう。また、彼の神を冒涜する発言だが私は熱心な信者ではないので、特に咎めようとは思わない。ただ、人によっては飛び掛かられてもおかしくはない問題発言だろう。



かくいう私も、昇代の儀式がトラウマになって、しばらく教会や神事に近づこうとは思えない。神様が私から回復技や有用なスキルを何かの間違いなら、早く返して欲しいとすら思っている。




「そういえば、グランも昔は冒険者だったんだよね?どうして辞めちゃったの?」



「あー、昔所属していたパーティがあったんだけど、大分特殊な戦い方をしていてな。天界の盾って知ってるか?」



「えっ、それってかなり有名なパーティじゃ……」




天界の盾。私の活動していた地方では会ったことはないので、詳細は不明だが、ヒーラーやタンクのみで構成されたチームと効く。毒などを駆使して火力不足を補い、自慢の耐久力で勝負するらしいのだ。



何でも歴代でも非常に数少ない、プラチナランクに匹敵するパーティだったようだ。匹敵するといったのは、実際はゴールドランクの地位に甘んじていたからだと聞く。何でも活躍に対して、ギルドからは冷遇されていたということらしい。



エアリーもそこに所属していたこともあるようだったが、昔のことはあまり語りたがらないので、詮索するような真似はしなかった。




「俺たちはかなり結果を出していたんだが、冒険者全体の代表になるようなパーティが、陰湿な戦法を得意とするっていうのが、どうもギルドのやつらや街の人間は気に入らなかったらしいんだ」



「えっ、そんなの人の勝手じゃないの?結局、勝てるかどうかが全てじゃない」



「そうだったらいいんだがな。ある日、冒険者連中に絡まれて、つい手を上げちまった。俺様は馬鹿にされるのは慣れてるつもりだ。ただ、仲間を馬鹿にしてくるやつを許してはおけなかった」



「そう……だったのね」




基本的に魔物が相手とはいえ、こういった戦術は敬遠されやすい。非人道的だとか、正々堂々戦えと言った、取るに足らない感情論から非難の矛先が向きやすいのだ。



その戦い方にどんな感想を持とうが、それは個人の勝手だが、これから命のやり取りをするというのに、わざわざ自分に向いてないことをする方が馬鹿らしいと思う。パーティを組む以上、仲間の命を預かる訳だし、手を抜くことは魔物に対して失礼だ。真剣勝負の世界に私情を挟むべきではないというのが私の持論。まぁ、それが世論では無いのも事実。



確かに、ギルドや冒険者には体裁やプライドがあるのかもしれない。しかし、そんなつまらないものの為だけに、彼やそのパーティの活躍が不当な評価を受けていたことを考えると込み上げてくるものがあった。



グランが手を上げてしまったことはギルドにとっては、自分たちに都合が悪いパーティを都合よく解散させる理由になってしまったであろうことは想像に難くない。何なら端っからそのつもりで他の冒険者をけしかけたのでは無いかと勘繰ってしまう。



寂しそうに語る彼の行動が間違っていたとは到底思えない。

自分に出来る最大限を、常に発揮していただけじゃないか。





「グラン、思い出したくないこともあった筈よね。それでも、話してくれてありがとう。大切な仲間の為に心の底から怒ることが出来る、それって素敵なことだと私は……」



「……いや、子供だっただけだ。事実、そのせいでパーティは解散、他のメンツは何とか不問にされたけど俺はギルドから資格を剥奪された。その上で、神様にも見離されたみたいで、昇代の儀式を受けることすら出来なくなっちまった」



「それでさっきはあんなことを……」



「あぁ、だから俺は昇代の儀式を7回目までしか受けてねぇんだ。お前も、神から酷い仕打ちを受けて大変だったな。その癖してゴロツキみたいな奴らが良いスキルを授かってるのは馬鹿みたいで、虫唾が走るぜ。馬鹿どもが」



神様から良いスキルをたまわるには、信仰心が大切と言うのが教会の教えだが、これは近年では大分疑問視されている。酔っ払って、教会の前で粗相をした冒険者が呆れるほどに強力なスキルを授かった事例がある位だ。神様の考えることはよく分からない。



と、色々語り明かしている内に朝を迎えていた。

随分と早いものだ。私は身支度を済ませた。




「助けてくれて……泊めてくれてありがとね。迷惑だろうし、私はそろそろ出ていくつもり。また、どこかで会いましょう」



「え、もう出て行くのか?」



「これ以上私が居たらのんびり出来ないでしょう。あっ、そうだお金!えーっと、1万エーンくらいでいいかな?」



「いや、金なんて……いらねーよ」



「?」



さっき100万払えって言ってきたのに。まあそんな額を請求されても私の手元にはその10分の1の金額もないから払えっこないのだが。



「それじゃあね!またどっかでこのお礼は必ずさせてもらうから!」



「ま、待て!やっぱり払え100万!」



「な、なんとぉ!?」



「払えるか?払えねーよなぁ?だったら俺様の頼み……間違えた、命令を聞きやがれ!」




何という酷い掌返し。金は要らないんじゃなかったのか。体でも要求されたらどうやって逃げようか。



しかし、彼の発言は私の予想とは大分ズレていた。



「俺様と!パーティを組んでくれ!」




調子に乗って連投してしまいました(汗)次回は明日の夕方&夜になりますのでお楽しみに!

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