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出会い②


私は眼を瞑って最後の瞬間を待った。



…………待った。





………………凄い待っている。






燕円断スワロー・ストライク!」




鋭い刀で斬りつけるような音の後、ズーン、と何かが大きなものが倒れる音がした。


それは先程、私がゴーストレントを追い詰め、ダウンさせた際の音に似ている。




…………………………何かがおかしい。





私は眼を見開くと、こちらの顔を覗き込んでいる、目つきの悪い男の姿があった。紫の髪にギラついた黄色の目。そして黒いマントが特徴の変わった服。




あぁ、やはり私は死んだのだ。コイツは地獄の鬼か何かだろう。ちょっと吸血鬼っぽい印象だが。




「随分と無様な格好だな、癒しの女王さんよ」



「……ご挨拶ね。私は天国に行く予定なのだけれど」



「……お前、何言ってんだ?」




私は生前、仮にも金等級冒険者だったのだ。実力は兎も角、冒険者や街の人間からそれなりの知名度はあるつもりだ。



彼のように通り名で呼ぶ者も多い。少しこっ恥ずかしいので苦手だが、否定する理由もないので受け入れている。問題は、どうして地獄の鬼が私を煽って来るのかということだ。神様に嫌われていることは良くわかっているので、とっとと「判決ぅ〜、地獄行き〜」とでも言ってくれればいいのに。




「はいはい、分かってますよ。血の池だろうが、針山だろうが、好きなものに放り込んだら?あ、でも大釜だけは勘弁してね。暑いのは嫌いなの」



「……は?」



鬼は動揺しているようだ。暫く考え込むような素振りを見せると、私に手を当て、一言呟いた。



空の癒し(ウインド・ヒール)



私は青白い光に包まれ、傷が癒えていく。視界や意識が冴え渡ってようやく気がついた。



「あれ、私……生きてる?」



「俺様としてはこのまま死んで貰っても構わないんだがな」



彼の目線の先には完全に沈黙した、ゴーストレントが横たわっている。先程、何かを切り裂くような音がしたのは、彼が魔物にトドメを刺したのだろう。私は彼に微笑みかけた。



「あなたが助けてくれたのね。ありがとう」



「べ、別に感謝されようと思ってやった訳じゃねぇからな!金でも請求してやろうってだけだ、勘違いすんじゃねぇぞコラ!」



「は、はぁ……」




何か怒らせてしまったようだ。癇に障ることでも言ってしまったのなら今すぐに謝りたい。何せ、彼は命の恩人だ。格好付けてみたものの、やはり死ぬのは怖かった。今になって恐怖心が込み上げてくる。




「そういえば、お前は何でこんなところに一人でいた?金等級の冒険者が訪れるような場所じゃねぇだろここは。腕試しでもしたくなったか?」



「いや、ちょっと色々あってね」



「俺様は大きなモンスターの影を見たって近隣の村から要請があって見回りに来ていたんだが、そっちはそういう訳じゃなさそうだな、言ってみろ」



「いや、本当に色々」



「良いから話してみろ。それとも、お助け料金100万エーンここで払うか?」



「嫌」



「なら、とっとと話してみろ」



困ったな。噂というのはすぐに広がる。私が空の団を抜ける理由としてギルドには実家に帰るからと言っている。彼に真実を話をしてしまっては、それが広まり、空の団に悪評がついて回るかもしれない。仲間をあっさりと切り捨てるような薄情な集団だと。私自身が団を抜けることを認め、その上で原因が自分にあると分かっているというのにだ。



人は真実がどうであれ、己の翳す正義の名の下に他人を責め立てることがある。質が悪いのは彼らに、悪さをしている自覚はないこと。顔見知りの冒険者も多いので、真実が知れ渡れば彼らを批難する者も現れるかもしれない。簡単な話ではないのだ。



かといって、仮にも命の恩人に、嘘をつくような真似はしたくない。さて、どうしたものか。




「じーっ……」



「な、なんだよ、いきなりどうしたってんだ」



「あなた、名前は?私はクインシー。既に知ってるみたいだったけど」



「俺様の名前はグラン。で、それが何だってんだ」



私は彼の腕をがしっと掴んだ。細く見えるが、結構筋肉質なようだ。



「ねぇグラン、お願い!このことは他のみんなには黙っておいてくれる!?」



「わ、わかったわかった!だから手ぇ離せ!」



よし。彼を信じよう。口はちょっと悪いが、悪い人では無さそうだからだ。金や体目当てに私を助けたなら、もうとっくに行動を起こしている筈。それにグランの手のひらは温かかった。



「ちょっと長くなるんだけど、聞いてもらえる?」



「あぁ。ただこの辺りはもうすぐ夜になる。話ながらでいいから、街に戻るぞ」



「了解!それじゃいきましょ……ってイタタタ!」




立ち上がると腕や足が痺れた。そういえば、さっきまで身動き取れない程には弱っていたっけ。深傷を負うと、スキルで回復できる量には限度がある。



「馬鹿、死にかけてた癖に激しく動くんじゃねぇ!肩、貸してやるよ」



「おっ、それじゃあお言葉に甘えて」



「ち、近い!もう少し離れろ!」



「いや、近づかないと手が届かないのだけれど」



「やっぱさっきのナシ!」



結局、私は一命を取り留めた。そして、一人で歩かされる羽目になった。グランは少し気難しいのかもしれない。


明日は2話続けて投稿する予定です!今後も御贔屓にして頂けると嬉しい限りです。

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