宝薬を求めて①
「お、おい……アレ見てみろよ」
「なんだぁ?……ってありゃ不死のグランと起死回生のパワーファイター、クインシーじゃねぇか!」
「ぱ、ぱわーふぁいたー!?」
私は思わず素っ頓狂な声を出していた。
依頼を終え、私たちはダイーパの街を訪れていた。
冒険者も多く訪れ、非常に活気のある街だ。グランの家があり、私もここで冒険者として活動していたことは少ないが、生まれ育った故郷と呼ぶべき場所で、思い入れがある。
その慣れ親しんだ街のギルドで私たちは他の冒険者達に食い入るように見つめられ、噂の対象となっていた。何故だかはわからない。
「やべぇ、聞かれてる!殴り飛ばされるぞ!!」
「と、とんずらだぁ!」
勢いよく外へと駆け出していく新米と思しき冒険者達。その様子を見て私は唖然としていた。グランは気にも留めていないようだったが。
ギルドからは想定外の手強い魔物の討伐を評価されて、彼はブロンズランクに昇格。報酬金も多く貰うことが出来た。
これから依頼を受けて、再びゴールドランクを目指そうと思っていた矢先の出来事だった。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
「……なぁ、あいつらってシルバーランクの冒険者が叶わなかった魔物をぶっ飛ばしたんだろ?」
「そうらしいぜ……しかもランクはブロンズとビギナー、俺たちと大差ない筈なんだよ」
「マジか!?じゃあ超大型新人ってことかよ!」
よく聞こえないが、こちらを見てヒソヒソと何かを話している人たちがいる。何だか気味が悪い。
この街では私たちが元、ゴールドランクの冒険者であることを知っている人は少ない。そもそも、私はヒーラーだったのだ。パワーファイター等と呼ばれるような謂れはない。
その上、ロックウルフ討伐以来、私たちは依頼を特に受けていなかった。勿論、その戦いの内容をこの街に来てから誰かに話した覚えもない。
グランの通り名は事実に則していて格好いいのに、私のはなんて言うかこう、アホっぽい。
頭を抱えているとガタイのいい男がズカズカと私たちに近づいて来た。見覚えのない顔だ。
「おうおう、オメェらが最近話題の二人組か?随分と話題になってるから見てみれば、華奢な女とただのヒョロガリじゃねぇか!ガハハハハ!」
うわぁ……たまにいるんだよなぁ、こういう人。
絡まれると面倒くさいので適当に流して、さっさと依頼を受けてどこかに行ってしまおう。
「ねぇグラン、この人は無視してさっさと……」
「ほう、馬鹿面ハゲ。面白いこと抜かすじゃあねぇか」
「エッ…………?」
「あ"あ"ん"?」
グラン、突然の罵倒。その場の空気が一瞬、凍りつく。
モヒカンはハゲではないとツッコミを入れたいところだが、もう大男は怒り狂っているみたいで、それどころではない。このままじゃ、また暴力沙汰になってしまう。
「お、おちつけぇ!暴力はやめとけぇ!」
「おっ、喧嘩か!?いいぞもっとやれ!」
思い思いの反応をあげる外野の冒険者たち。何か面白いものを見つけた子供たちのように、私達の前に人が集まる。
そんなことには目も暮れずモヒカンの男が拳を振り上げ……
ギルド内の食事処に置かれた大タルを指さす。それを見てグランはニヤリと笑う。
「ほう、アレで決着をつけるんだな?」
「おう、このオレに喧嘩を撃ったことを後悔させてやるよ、ヒョロガリの兄ちゃん!」
「抜かせ、でくの坊。俺様に勝ったら、そこの女をくれてやる。その代わり、てめぇが負けたら……」
「な、なにおぅ!?」
介入する間もなく、話が進んでいる。しかも、私の承諾もないまま、勝負の景品にされてしまった。
「ほう……オレはまな板より、ボインのねぇちゃんが好みだが…………まぁ、いいだろう!」
「おい」
頼むグラン。このデカブツを叩き潰してくれ。
「そうと決まれば勝負だ、ハゲ野郎!」
「かかって来やがれ、クソガキ!」
「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!」」
二人の勝負が始まる。冒険者として、ひいては男としてのプライドを賭けた真剣勝負……と言った体で繰り広げられるのは腕相撲。そう、腕相撲だ。
ギルド内では暴力は厳禁だ。冒険者同士でのいざこざは大体この腕相撲で決められる。実際に手を出してしまうと以前のグランのように積み上げて来たランクを剥奪されてしまう。
なので安全な決闘として、腕相撲はギルドからも推薦されている。各地のギルドに大きなタルがあるのはその決戦場となる為だ。
物好きな冒険者の一人がレフェリーを買って出て、決戦の火蓋が切られる。
「勝負………………開始ィ!」
ドン。鈍い音が鳴る。
……あ、終わった。勝負は一瞬だった。
「ま、参りましたぁ……もうマヂ無理……」
「……お前、本気でやってるのか?」
「本気です……本気も本気です…………」
「そ、そうか……何かすまんな…………」
グランの勝利だ。それもやらせを疑う程に圧勝。
負けた大男は地面に頭を擦り付けている。グランは余程、相手が弱くて驚いたのか若干同情すらしているようだ。
「す、すげぇー!」
「あのデカくて何か強そうなヤツをあっさり倒すなんて!やっぱりアイツ只者じゃねぇ!」
「か、かっけぇ……」
外野が盛り上がっている。細身のグランが大男を腕相撲で捻じ伏せたのだから無理もない。彼はかなり筋力が強いが、あまり外見は筋肉質ではない。
そのことにカタルシスを感じているのだろう。
「おう野次のおめぇらにいいこと聞かせてやるよ、そこの女は俺様よりずっと力が強い。軽く手を出すと腕が捥ぎ取られるぜ?」
「ヒ、ヒェッ。やべぇよ……やべぇよ…………」
「さすがパワーファイター……あの男より更に強い何てそんなのアリかよ!」
「ちょっと!?何て出鱈目を!」
私もここまで好き勝手されて黙ってはいられない。
グランに詰め寄ると、耳打ちをされる。
「こういう風に言っておけば、さっきのハゲみたいなのが言い寄ってくることが無くなるだろ」
「な、なるほど!」
グランは賢いんだな。本当に意味があるかはよく分からないけど、きっとそうなんだろう。多分。
話をしている私たちに、跪いていた男が立ち上がって再び頭を下げてきた。
「アンタ達の強さを見込んで頼みがある。無礼は承知の上でオレの頼みを聞いてくれないか?」
彼の眼差しは私たちに絡んで来た時とは打って変わって真剣なものだった。
投稿大変遅れて申し訳ございません!次回は日付が変わる前に頑張りたいと思います……




