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凱旋②


宿での一夜が明け、目が覚める。

朝だったら小鳥のさえずりくらい聴こえて来そうなものだが、えらく静かだった。


寝ぼけまなこを擦りながら、何の考えも無く部屋に据え付けられた時計を見やる。




「…………はっ!」



「ん、随分と遅いお目覚めだな。もう昼飯時だぞ」



「ちょちょちょ!何であなたがここにいるの!?」



「いや最初から相部屋だっただろうが……」




呆れた顔をしているのはグランだ。昨日はあまりにも疲れていた所為か、魔物を狩った後のことを殆ど覚えていない。すぐに宿で寝たんだっけか。



戦闘が終わった後、彼に回復スキルを何度か使ってもらったので身体に異常はなさそうだが、疲れまではスキルだけじゃ回復できない。



宿は村一番のモノを用意すると村の役人が言っていただけあって、とても質の良い布団が使われているのが分かる。手触りが良く、安らぎを感じる。



「そっか。それじゃあ、おやすみなさい」



「おう、おやすみ…………ってお前さっきまで寝てたばっかりだろ」



「そうだけど……ふかふかの布団が…………」



「まあ、無理して動き回る必要はないと思うけどな。ただ、村の奴らや昨日の冒険者がお前に会いたがってたぞ。ギルドの迎えが来るまでに挨拶くらいは済ませておいたらどうだ?」



「そうね!じゃあ行ってくる!」



「…………せめて寝癖くらい直してからいけよな」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






バイン村。近くにある牧場や田園地帯があることを除いて、これと言った特徴のない小さな村だ。


強力な魔物が現れることも少なく、今までは自警団の存在もあり、野生の生物が大きな脅威になるようなことは長らくなかったと聞く。



私が村で必要以上に英雄や女神様とか言われるのは、そういう背景があるからかもしれない。



また、外部から来る人間も非常に少ないという。

この村に長いこといた訳ではないが、個人的には都会の喧騒を忘れられる落ち着いた雰囲気が好きだ。



食べ物もすごくおいしい。これはとても重要なことだ。それだけを目当てに人が集まることだって少なくないのだから。



「どうだ?何もない所だが、悪くないだろう?」



「うん!何ならしばらくここに住みたいくらいよ」



「ハハハ。そう言って貰えると嬉しいな」



会話を交わしながら、村を案内してくれているのは雷を操り、魔物と共に戦った冒険者、ライカだ。


凛々しい声色や白黒の馬に乗っていたことで、その長身さが際立って見えたことも相まって、女性と聞いて驚いた。そのスタイルの良さが羨ましい。




「ライカの生まれはこの村なんだよね?」



「そうだな、最近は出突っ張りだったから全然帰って来れていなかったんだけどな」



「そっか、もしかして帰省していた理由って……」



「あぁ、ギルドから依頼を受けてな。何でも、村の近辺に現れたロックウルフのうち一頭が非常に危険な個体であるという情報を受けたんだ。これは地元が危ない!と思って捜査に飛び出した次第だよ」



「……私たちも同じ依頼を受けたんだけど?」



驚いた。まさかとは思っていたが、依頼の多重契約が起きていたとは。以前も何度か経験しているが、頻繁に起きることではないのだが……



「ああ。事前に他の冒険者が出発していることは知らされていたよ。ただ……彼らは魔物に喰われてしまったんだろうな」



「!?」



話の流れからして、その二人組は私たちのことだ。


でも何かがおかしい。私もグランも生きている。

無事では無かったかもしれないが五体満足で生きている。これは彼女なりのジョークなんだろうか?


いや、生真面目な彼女が、そんなつまらない冗談を言っているとは思えない。何だか怖くなって来た。実は私はあの時、既に死んでいた?


 


「依頼を受けた時にブロンズランクとビギナーランクの冒険者が二人組で既に出発していることは聞かされていたよ。それでも、ギルドはまだ人員を募集していた。それも緊急を要するものとして」



「えっ……それって私た…………」




「私には故郷は勿論、その二人も守る義務があったのだ。しかし!彼らに会うことは叶わなかった。あの大物に殺されてしまったんだろう。シルバーランクの私が、一人では太刀打ち出来なかったんだ」



「あ、あの……」



「私の実力不足で救ってやることが出来なかった。《癒しの女王》と呼ばれているクインシー殿や、《天界の盾》に所属していたというグラン殿がたまたま通りかからなければ、私は村だって守れなかったに違いない……」




「ラ、ライカ…………ちょっと……」




ダメだ。この人も全く聞く耳持ってくれない。この村の人の特徴なんだろうか。いい人ばっかりなのは分かっているつもりなんだけど……兎に角せっかちだ。心なしか彼女の愛馬も俯いているように見える。



どうやらライカは私たちが未だに、ゴールドランクの冒険者だと思っているようで、この近辺に来ていたのは単なる偶然と思っているようだ。



彼女が死んだと思い込んでいる低ランク冒険者二人組が私たちだとは夢にも思っていないのだろう。



この辺りの説明は後でグランに丸投げしてどうにかしてもらおう。とりあえず一旦、宿に戻ろうか。


次回は明日の夜の投稿になります。時間は夜の11時前後になると思います!

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