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凱旋①

不遇な女王の成り上がり 凱旋①




渾身の一撃。



撥ね上げられた魔物は地に落ち、それでも尚、立ち上がろうともがく。もがき続ける。



が、遂に再起は叶わなかった。


蝋燭に灯した火が消えるように、紅い眼が綴じられるのを見て、今度こそ長かった戦いに幕が引かれたのを感じとる。



振り返ると、共に戦った仲間たちが駆け寄って来ている。よかった。全員無事のようだ。私が攻撃の幾つかを受けたのも無駄ではなかったと思いたい。



「この、馬鹿野郎!よくもやってくれたな!」




集団の先頭はグランだ。怒っているような、喜んでいるようなよく分からない表情を浮かべていた。


役目を果たしたのを悟ったか、宝珠から光が消えていく。その瞬間、体がずんと鉛のように重くなる。



「うっ……」



全身への痛みが蘇る。足腰もガタが来ている。

本来、許容範囲外の攻撃を受け続けて、その直後に瞬間的とはいえ限界を超えた動きをしたのだ。


今にもその場に倒れ込んでしまいそうになるが、ぐっと堪える。死力を尽くして戦った魔物の前で情けない姿を晒したくはない。



「…………」



魔物に黙祷を捧げる。


これだけの大きさや力を得るのに想像も出来ない程の月日を過ごして来たのだろう。村に近づいて来たのも、命を繋ぐ為だ。人のように悪意を持ち他者の命を脅かしている訳ではない。



かといって話し合いが通じる訳でも無いので命を奪う他なかった。失われた命は二度と戻らない。



ならば、私にできる最大限の敬意を払うのは当然のことだ。


どれだけ劣勢になろうと、絶対に諦めないこと。

口にするのは簡単だが、簡単に実行できないことをこの魔物は、最後の瞬間までやってのけた。



この気高い精神に人と魔物の垣根はない。冒険者としての私が失念してしまっていた大切なものを彼は思いださせてくれたのだ。



空の癒し(ウインド・ヒール)!」




グランが回復してくれているようだ。青い光が優しく、傷だらけの身体を包み込んでくれる。



介抱してくれるものがいなければ、決着が着いたとして野垂れ死んでいたかもしれないなぁ……


一息ついたところで、私の周りに自警団や冒険者、そして村の人々が寄り集まって来ていた。



「な、なぁ、あのスキルは何ていうんだ!?俺にも教えてくれねぇか?」



「師匠!弟子にしてくれぇ!」 



「すっげ!すっげ!あんたは村の英雄だよ!」



必死で編み出した、苦し紛れの策が運良く通っただけの私が英雄というのは違う気がする。勿論、褒められるのは悪い気はしないが。とにかく訂正しなければ気が済まない。



「あ、あの……!一人ではどうしようもない相手でした。皆さんの強力があってこそ、勝つことができたんだと思います。だから私の手柄じゃな……」



「な、なんて謙虚なんだぁーッ!」



「……感動を通り越すと涙すら流れないんだな」



「すっげ!すっげ!あんたは村の女神様だよ!」



「ふぇぇ……」



あっ。これはダメだ。



どうしよう。胴上げでもされそうな勢いで人が集まって来ている。ちょっとどころではなく暑苦しい。



「おうおうてめぇら、そいつは今疲れてるんだ。

悪いけど今は休ませてやってくれねぇか?」



「そうだ。何せ、あの激しい攻撃の大部分を一人で受け止めてくれたんだからな。まあ私も後日、話を聞かせてほしいと思っているがね」



ありがとうグラン。あと馬に乗った人。二人の気遣いが心に染みる。村のみんなも分かってくれたようで、一旦騒ぎは落ち着いた。



来る時に乗せてもらった馬車は村を襲撃した魔物と接敵した際、街に返してしまった。もうじき夜になるので今日はギルドからの迎えは来ないだろう。



一応、魔物の討伐が済んだ旨を記した手紙を村の役人が伝書フクロウに持たせて街へ飛ばしていた。



明日、倒す相手がいないのに討伐隊が村に送り込まれるという事態はこれで回避できるだろう。





また、今日は宿に泊めてくれるということだった。



回復をしてもらったので痛みは引いて来た。ただ、もうクタクタで今すぐにでも寝てしまいたかった。



それでも、日が暮れる前に魔物の解体作業を行わなければいけない。グランが村人数名に協力を仰いでくれたお陰で、手分けして魔物の解体を行うことができたので然程時間は掛からなかった。



「おっ……これは…………」



「こいつは随分と立派な牙だな。折れずに綺麗に残っているのは大分珍しいぜ」



「そうなの?じゃあ、これグランにあげるね」



「いや、今日のMVPはお前だろ?自分で持っておけばいいんだよ、そういうのは」



ロックウルフの牙はお守りとしても知られていて、宝珠の代わりに身につける者もいる。何でも、岩のスキルを使う際に威力を引き上げてくれるとか。



大きければ大きい程に効果も取引価値も高いと聞くので、コレはもしかしたらとんでもないお値打ちモノの可能性がある。売るのは勿体ない気もするが。



「私は岩のスキルを一種類しか使えないの。グランが持ってた方がきっと役立つと思う」



「いや、これだけ立派な牙を持ってればそれだけで名誉になるだろう。それに売れば大分稼げる筈だぜ」



「でもさ、コレがあるお陰で今後、誰かが助かるかもしれない。その時に私が持っていても使い熟せないかも」



「そ、そういうことなら受け取っといてやるよ……その、なんだ……あ、ありがとな」



「うん、こっちこそ守ってくれてありがとね!」



魔物の亡骸を埋め立てたら、今日は早く寝てしまおう。戦闘のフィードバックや美味しいものを食べることは明日になっても出来ることだ。



「……どうもお前といると調子が狂うんだよなぁ」



グランが考え込むように頭を抱えていた。やっぱり彼も疲れているようだった。


ストックが底をつき、投稿遅くなりました……明日はもう少し早い時間に上げられるように頑張ります!

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