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餓狼③


すぐさま、魔物は冒険者に飛びかかろうとするが、自警団が弓や投げ槍で牽制し、攻めあぐねる。


予想だにしていなかったであろう、一度退けた相手の復帰に煩わしそうに低く唸り声を上げる。



「隙を見せたな!鉄鋼剛翼メタルウイング!」



グランもある程度、体力が回復してきたようだ。

再び魔物の懐に飛び込むと、エネルギーで形成された、金属のような翼を激しく打ち付ける。魔物は堪らずに大きくよろける。



初撃ではあまり大きなダメージを与えられなかったスキルだが、弱点を突いた攻撃だ。先程の波状攻撃もあってか、魔物から悲鳴のような力ない鳴き声が上がる。相手も弱っていることは間違いない。


さらに自警団の数名が武器を用いて追撃を加える。グランの攻撃のように怯ませることこそなかったが、魔物に明らかな焦りが見える。



追撃を考えたが、私は直接相手の攻撃を受ける訳にはいかないのだ。この魔物のパワーで直接、岩の技を受けようものなら助かりようがないのは自明の理。



命懸けで戦っている中、自分だけ安全な状態を維持するのははばかられるが、周囲を巻き込む岩の大技がある以上は必要が迫れば、すぐにでも守護結界を使えるように待機せねばならない。



「ウルヴォォォォォン!」




魔物は天高く咆哮すると、再度火が灯るように眼光に殺気が満ち溢れる。追い詰めているのは間違いない筈だが、通常個体を数倍は上回るであろう生命力に度肝を抜かれる。


果てしない生への執着を感じるが、今は感嘆している場合ではない。そしてこの構えは…………


  


「ひっ、またアレが来るぞ!」



「い、嫌だ!まだ死にたくねぇ!」



自警団のうち数名が慌てふためく。無理のないことだ。再び、あの大技が来る可能性が高いのだ。空気が張り詰めていくのを肌で感じる。本能が嫌という程、逃亡することを訴えかけてくる。



彼らもあの圧倒的な物量による攻撃を受けていたみたいだ。

私達が辿り着くまでに決して少なくない人数がいたと言うのに、戦線が崩壊しかけていた理由は間違いなく、この構えの後に繰り出される、無数の岩の刃を飛ばす技が原因だろう。




「させるか!先制奪取ファストドロー!」



馬に跨った冒険者もそれが分かっているように、大技を使われることを阻止すべく、攻め立てる。


今放たれたスキルは、相手と同じ技を高威力で放つものだ。


魔物がしているように、大地から岩の刃を錬成。天を仰ぐ、無防備な魔物に次々と撃ち込まれる。放たれた数えきれない岩片が無数の斬撃と化し、魔物を襲う。



轟音を立て、着弾地点から砂煙が巻き上がる。



「や、やったか!?」



束の間の沈黙、数名が湧き上がる。その表情からは余裕が見て取れる。それとは対照的にグランやもう一人の冒険者の表情は厳しいままだ。私も彼らも同じような表情をしていることだろう。この個体のタフさは私も十分に理解している。



砂煙が晴れ上がると、傷だらけではあるものの攻撃の準備を着々と進めている魔物の姿があった。



まさか、自身が使う大技と変わらぬスキルを撃ち込まれて、倒れるどころか、攻撃の中断すらしないで真っ直ぐこちらを見据えているとは。



そして周囲には無数の岩石が漂っていた。この場で私が攻撃を加えても、この大技を止めることはできないのは明白だ。



そう思うのは、何としてもこの一撃で一網打尽にしてやる。という強い意志を魔物から感じたからだ。



生命の危機に瀕して尚、爛々と灯る真紅の眼は生存本能からだろうが、闘争そのものを楽しんでいるかのようにも感じさせた。



「動けるものは今すぐ守護結界を展開して、衝撃に備えろ!それができない者は、直撃を避けるか身を守れ!」



白黒の冒険者は一喝するも、自警団の者たちは守護結界が間に合わないという様子だった。彼らは魔物が力を溜め始める直前まで攻撃していたのでスキルによる防御が間に合わないのだろう。


それは指示を飛ばした本人である、白黒の冒険者自身も同様のようだ。


「チッ、凌ぎ切れるか……?」



目を細め、両腕を交差することで攻撃に備える冒険者。


自警団は一度引いて態勢を立て直したとはいえ、手負いのものも少なくない。死人が出ても全くおかしくない状況だ。


あたりに広がる、仄暗い静寂を……グランが破る。




「唸れ、大地よ!地壊……(アース)」




いけない。



彼に地壊震撃アースクエイクを撃たせてはいけない。

止めなければならない。確かに、グランが地壊震撃アースクエイクを撃ち込めば、魔物は倒れるかもしれない。彼の得意のスキルで強烈な破壊力を持つ上、魔物の弱点だ。初撃の反応から、傷を負った今のロックウルフには引導を渡す一撃となるだろう。



しかし、自警団やもう一人の冒険者を巻き込むことになる。魔物の攻撃が当たるよりは相対的にマシかもしれない。が、結界は人によって大きく異なるものだ。



グランのスキルによって、想定外のダメージを受ける者もいるかもしれない。少なくとも、白黒の馬に跨った冒険者は雷を操っていたので、地壊震撃アースクエイクが弱点の可能性が極めて高い。死にはせずとも、治らぬ傷を負う可能性だってあるのだ。


そんなことがあれば、彼は再び蔑まれ、多くの人間から責め立てられることになりかねない。



それだけは嫌だ。仲間の為にやったことで辛い思いをする。彼に同じ轍を踏ませたくはない。私が、仕留めるんだ。




叫べ。走れ。




「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




蛮族のように絶叫し、なりふり構わず全力で走り込む。前傾姿勢のまま、魔物目掛けて一直線に突撃していく。足の遅い私だが、必要が迫ればそれなりに走れるみたいだ。



作戦が上手く行く確証はない。だが今はなりふり構ってなんか居られない。たぎる衝動だけを原動力に突き進む。



それでも、グランの自分の評判を犠牲にしてまで、人を守ろうとする覚悟を見て考えが変わった。不利な相手とはいえ、私だけ安全から眺めていて良い筈がない。




「震撃…………(クエイ)お前バカか!?今すぐに戻れ!死にたいのか!?」




彼から怒号が飛ぶが、私は止まらない。魔物は攻撃対象を全員から、突撃してくる目障りな者に切り替えたようだ。狙い通り、ターゲットは私に向いた。


全ての攻撃を誘導しきることは無理だろうが、技の大半は私に命中するだろう。当然、私は一溜りもないが、この場の全員が被弾する回数は大きく引き下がるだろう。




「止まれ!守護結界が間に合わなくなるぞ!?」



白黒の冒険者も私を静止する。私は使うのに時間のかかる、守護結界で自分だけ助かるつもりはない。


かといって、無策で殺されるつもりも毛頭ない。



「ガロォォォォォン!」



魔物が吠える。おびただしい数の岩で作られた刃が放たれる。当然、最前線にいる私に真っ先に着弾するだろう。眼前に死が迫ってくる。


だが、これでいい。



今だっ!



喰いしばり(ファイナルスタンド)!!」



ここまで温存していたスキルを放つ。それは攻撃スキルでも、守護結界でもない。立ち止まった私に凶器と化した無数の岩片が飛来する。




ザクッ。ザクッ。



痛い。それも形容できない程に。

ただ意識だけは手放すな。でなければ、ここまでする意味がない。自分に言い聞かせる。




ザクッ。ザクッ。



まだか。時間にしてはほんの数秒の筈なのに。突き刺さる岩刃の一本一本が、生々しく、嫌でも死を意識させてくる。



見ることは出来ないが、壮絶な苦痛に、相当歪んだ表情を浮かべていることだろう。それでも猛攻は終わらない。



ザクッ。ザクッ。




岩もはや感覚が消え失せる。


時間が無限に続くように感じられた。



ザクッ。




「ガルルァァァァァ……」



ようやく、岩の雨が降り止む。魔物も息が上がっている。

何とか…………耐え切ることが出来たようだ。



そして、気を見計らっていたかのように指輪の宝珠が輝き出す。身体が、羽根のように軽くなる。



逆転の宝珠。追い詰められた時にたった一瞬だけ、誰よりも素早く動くことが出来るという代物。戦う前はこんな馬鹿げた戦術は思いつかなかった。今日、思いつきでこれを身につけたのは、もしかしたら運命なのかもしれない。



魔物が再度身構えるより先に跳躍、その懐へと飛び込む。

この一撃に全てを賭けるのだ。 




最後の(ファイナル)……………!」




風を切る感覚を受けて、飛び込んだ勢いを殺すことなく。



フルパワー!!」



ありったけの力を込め、頸椎に掌底を叩き込む。



「ガルァッッッ…………」



魔物の巨体が、ひとひらの葉のように宙を舞った。


次回は更新が遅れてしまうかもしれません。ご容赦頂けると幸いです。

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