98話 髪留め
ユイラの声に少し違和感を覚えながらエイラはいつもより瞼に力を入れ目を閉じた。
「ミツネ、お願い」
「はいはい」
呆れた声を出しながらも口元は緩みミツネはユイラと共にエイラの後ろに回る。
ミツネはエイラの赤くな長い髪を梳きユイラが袋から、紐の髪留めを出すのを待った。いつもは手先が器用なエイラもこの時は緊張で手が震え袋を何度も擦れさせ音を立てる。
エイラの髪を後方でまとめたミツネは束ねた髪をユイラへと渡す。
紐の中心にあしらわれた緑の桜を髪の上に乗せ左右均等に紐で巻いていく。紐はアイラが染めてくれた緑と黄色の綺麗なグラデーション。緑の桜はエイラの赤髪の中で綺麗に主張した。
ユイラはは一本に束ねたエイラの髪の下でリボン状に紐を結び髪を纏める。
用意周到なミツネは既に鏡を二枚出していた。一枚を自身が持ちもう一枚はユイラに渡す。
「目、開けていいよエイラ」
ゆっくりと目を開けたエイラは目がぼやけているのか何度か瞬きをし後ろで束ねた髪に触れる。少し驚いたのか表情は変えずに何度か指の腹で緑桜のアクセサリーに触れた。
「髪留め..」
エイラは呟きユイラが持つ鏡に目を向ける。ミツネの持つ鏡を映した鏡は、一つにまとめたエイラの後ろ髪を映し装飾品がきらりと輝いた。
「ありがと」
声は小さく振動として残ることは少なかったが、確かに聞こえ胸の内がとても温まった。
「どういたしまして」
「凄い綺麗だね。こんな綺麗な染色見たことない..」
先程まで静かにしていたベルエットがエイラのまとめた髪を持ち上げ髪留めを注視した。
「染色の上手い人に特別に頼んだもの」
アイラさんに頼み特別に染色したものだ。
王都のどこにも売っていないこの世に一つしかない髪留め。王都で作られた緑桜の装飾品にソーメル町の染色を担うアイラさんの染色。どれも、この世で掛け合わさることが未だにないとても美しい髪留め。それをつけるエイラもまた美しかった。
「ユイラユイラ、私の誕生日は7月29日なんだけど、こんなに素敵な物くれるの?」
ニヤついた顔でユイラを見るミツネは鏡を渡し歩き出した。
「うん。あまり期待はしないで欲しいけど、努力はするよ」
「それはどうも」
ミツネが歩き出しその後に続くように皆が動く。
一歩、踏み出した時、蜂蜜の香りがした。甘い香り。嗅ぐだけで伝わる優しい香り。隣を歩くアイラの香り。一度に嗅ぐと酔ってしまいそうな香りだが、心地は良く私の中に染み込んだ。
私は私が思ってる以上に今回のプレゼントに満足しているのかもしれない。