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95話 蜂蜜祭


 5月30日。やっと日が頭上に上り始めたころ、去年よりも多い人数でユイラの家に人が集まった。メンバーは幼馴染である、ユイラ、ガイス、ミツネ、そして今日が誕生日であるエイラ。このメンバーは毎年集まり蜂蜜祭を回りっている。しかし、今回は人数が違うどころか、ソーユ村ので育っていない人たちだ。


 私からしたら、アミスもベルエットも知っている。エイラも面識がある為違和感を持っていないだろう。しかし、ガイスとミツネは違う。


「この、紫の小さな子は誰?可愛いんだけど。てか、もう一人は綺麗系だし、しかも、銀髪!」


「おい、どう言う事だ..なんでエット・ベルエットがいる。あと、エイラが顎を乗せている子は誰だ?」


 ミツネは目をぱちくりさせながら、今にも触れてしまいそうな手が忍び寄っている。そんな目や手にアミスがびくりと肩を上げ小さく震えているが、エイラは気にせずアミスの頭の上に顎を乗せている。


 ガイスは反対に嫌悪の目をベルエットに向けていた。勿論、本人は嫌悪感を抑えているつもりなのだろうが、ガイスの周囲は重くなっているのが確認できる。おそらくは、ベルエットが苦手なのだろう。嫉妬か人間性なのかは分からないが。


 そんな二人にユイラは簡単に紹介を行った。


「えーっと、紫の髪で可愛いのがアミス。なんか、小舟でここまで来て私の家の倉庫で寝てた所を捕まえた」


 アミスは小さくお辞儀をし二人の目線から逃げるように、髪で隠れた目を動かす。


「それと、ベルエット」


「それだけ?!」


 エイラの説明に不満があるのかベルエットは激しく抗議した。


「はいはい。えー銀髪が綺麗なベルエットです。ガイスの心を掻き出す女の子です」


「何それ」


 ベルエットは不思議そうにユイラを見るが周りの人は薄々気づいているはずだ、ガイスの目の中にある黒い何かに。


 お昼と言う事もあるが、お腹には固形物は入れず蜂蜜レモンを飲みながら互いについて話をした。多くはアミスとベルエットの事を話、他は日常についての会話に花を咲かせた。


 30分くらい話を続け、内臓がきゅっと引き締まった時、自身だけが聞こえる音が各々聞こえたのだろう。


「じゃあ、そろそろ蜂蜜祭に行きますか」


 ミツネの合図をしきりに皆が立ち上がり、玄関に向かう。皆が靴を履くまで扉を開けることは無い。窮屈な中でも、皆が薄々開けない理由に気付き文句を言う人はいなかった。


 最後にアミスが靴を履いたのを確認しミツネがドアノブに手を掛ける。

 下に下がったドアノブはかちりと固い音を鳴らした。次に聞こえるのは少しだけ軋む音。静かな空間には少しだけうるさく感じたが、そんな聴覚などは無くなる。


 玄関にいるはずの6人はしっかりとした五感を持っているはずだが、扉が開いた途端、感覚は全て嗅覚に注がれる。


 甘く、柔らかい蜂蜜の匂いに嗅覚以外の感覚が奪われた。




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