9話 お泊り・1
月が高くまで登り夜も半ば。暖色の小さな明かりを頼りに3人は椅子に座る。ユイラの隣にはエイラが座り二人の目の前にはミツネが座った。
机の中心には木皿に盛られたサラダ。各々手前にはスープとパンが置いてあり、ゆったりとした時間が進む中、夕食が始まった。
ミツネがサラダを取り分けている時、私はぼーっとフワボウを観察していた。先はだから少し離れた棚で糸を出している。何か獲物を取るわけでもなく、ただ淡々と糸を出しながら周回し、一つの球を使っていた。
よくわからないけど、あとでキャベツでもあげよう。
ことんっと小さな音が鳴り、ユイラの前にサラダが置かれる。瑞々しい野菜たちはミツネの家で取れたものだった。
彼女が動くたび香る匂いは自然な匂いと香ばしいパンの匂い。家での生活が染み付いていた。
3人に食事が行き届き料理を口に運ぶ。
パンは焼きたてではないが、食感はもっちりと柔らかく中が詰まっていた。バターの心地よい匂いと少しの甘みはすぐに飲み込んでは勿体ない。何度か咀嚼をし、味わいながら飲み込んだ。
野菜にはオリーブオイルと塩だけの簡単な味付けながら野菜の鮮度のより箸が進んだ。
「そんで、結局ミツネはどうなの?」
「どうなのとは?」
「ガイスと」
ミツネは野菜を口に運び何度か咀嚼したあと、トマトスープに口をつけた。美味しくできたのか顔を綻ばせスープを置いた。
「いつも言ってるけど、嫌いじゃないよ。でも、私達はまだ大人にもなってないから」
その発言とは裏腹に彼女の仕草や声色は色っぽく子供だとは思えなかった。
私から見たらスタイルも良く落ち着いている2人は既に大人に近いところに居るんだと思う。私は二人の成長に追いつけていない。今も、2人の話を聞きながらフワボウを 見ている。作っていた糸の玉が2つに増えていた。
「別に成人迎える前でも良いんじゃない?なんなら、私達の下の子達も付き合ってる子いるみたいだしね」
「まぁ、そうだね」
「最近、王子様は街の貧乏な人に恋をしたって噂もあるくらいだし」
エイラは情報が好きなのか沢山のことを知っている。美味しい食べ物からオススメの場所、最近の出来事、王都の事まで。梟情報紙を取っているエイラの家には沢山の紙が置いてある。
将来エイラは王都に行ってしまうのかと思ってしまう。そうなれば、寂しい。
「どうしたの、ユイラ?」
「ん?何でもない。トマトのスープが美味しいなっと思いまして」
「パンは?」
「もちろん美味しい」
二人はクスっと小さく笑い食事を続けた。あと三年もすれば成人を迎える。その時二人はまだ村に残っているのだろうか。それとも都会に出てしまうのか。大人になる喜びと小さな胸騒ぎが続き夕食が終わった。
三人で使った食器を洗い、お風呂に入る。月明かりが窓から差し込み暖色の光と合わさり浴室を照らす。
「やっぱりユイラの家はお風呂大きいね」
1つの浴槽に三人が入り体を寄せあった。
昔は三人が1つのお風呂に入っても余裕があり足が延ばせたが今では3人とも足を畳まなくては入れなかった。
水に当たり色濃く発色するエイラの髪はいつ見ても綺麗だった。光に反射し煌びやかに光るその髪は宝石のように触れるだけで何故か緊張してしまう。
まぁ、ミツネは堂々と触っているんだけどね。
「エイラ、髪伸びたね。切らないの?」
「今のところは考えてないかな」
「結んでみたら?」
「んー」
ソーユ村では髪を結ぶという文化があまりない。髪を伸ばしている女性は沢山いるが、多くの女性はミツネノように肩の高さまでしか伸ばさない。エイラのように背中の真ん中あたりまで伸ばす人はそうはいないだろう。今も水の上で髪が不規則に靡いている。
「ユイラはどう思う?」
風になびくエイラの髪も魅力的だし、長い髪を活かして編み込むのも綺麗なのだろう。だけど一番は後ろで髪を1つ結びにする事かもしれない。無駄に飾らなくてもいいからシンプルな物がいいかもしれない。
「私は結ぶのもありだと思うよ」
「そう?」
「うん」
「じゃあ、結ぶ日も作ろうかな...」
エイラは水で重くなった髪を救い、眺めていた。彼女の1つ1つの仕草が人の目を引き付けるのは幼少期の事から変わらなかった。